第2109冊目 世界中のエリートの働き方を1冊にまとめてみた: グローバルエリートは見た!投資銀行、コンサル、資産運用会社、プライベート・エクイティ、MBAで学んだ15の仕事の極意、そしてプライベートの真実  ムーギー・キム (著)


  • 社内政治のプロになる――出世には「いい働きをすること」だけでは足りない?


最後に、社内での社交術、言い換えれば社内政治についても書いておこう。


欧米のMBAでは、社内政治やパワーポリティクス、上司や部下の操縦術などを授業で習うためか、「ニコニコ社内政治バトル」が展開していることが多い。


「一生懸命働くだけではダメで、いい働きぶりを周囲のキーパーソンに知らしめることが大切。『いい働きをすること』よりも『いい働きをしていると思われること』のほうが出世のために重要なのだ」とは、(私がこれに同意するわけではないが)国や会社によらず、多くのビジネスパーソンがよく口にしていることである。


たしかに世界のトップエリートのみなさんは、絶対にボスと無防備な状態では争わない。


当たり前といえば当たり前なのだが、自分より力の強い人に盾つくには、職を辞する覚悟が必要になる。上司との交渉でやたらと強気に出たり、評定のフィードバックで猛然と上司に抗議したりするときは、ほかに「バックアップ」、すわなち同等以上の条件での転職先か、社内で有力なスポンサー(支援者)を用意しているものである。


どの職場でも若くして出世する人は、スポンサーになるような社内キーマンを見抜くのがじつに巧い。「誰の召使いになり」「誰を敵に回し」「誰を無視するか」を瞬時にかぎ分ける。


役職が自分よりも上の人からの依頼であっても、「自分の評定に響かない」「響いても自分の支援者の政治力で握りつぶせる」と判断すれば、徹底的に仕事の依頼をはねのける。


その一方で、社内キーマンには自分の働きぶりを徹底的にアピールする。一生懸命働いて成果を出すだけでなく、「『よく働いている』と力のある上司に認識されること」が出世に不可欠だと見抜いているからだ。「時間」という限られたリソースの使い方がじつにうまい。


誰のために働けば会社で最速で出世できるかを熟知しているこの社内政治のプロは、総じて素敵な笑顔の持ち主であり、わざとちょっと間抜けで無邪気な善人を装いながら、次々と周囲を味方につけていく。


会社にとって戦略的に重要な市場や役割を担当すると同時に、会社にとってかけがえのない重要な顧客とも瞬く間に強い関係を築いてしまう。その結果、「人間関係のハブ空港」のような存在になっていくので、ボスも、やすやすと手を出せなくなる。


私自身は社内政治が本当に苦手で、かいがいしく静かに誠実に働くことしかできない愚直な人間なのだが、社内政治の機微に長けていない、内気なタイプは、仕事のクオリティのわりに報われないことも多いので、十分に気をつけたいものである。