第2092冊目 “惜しい部下"を動かす方法 ベスト30  大塚 寿 (著)


“惜しい部下

“惜しい部下"を動かす方法 ベスト30

  • 「周りを味方につけたほうが、得だぞ」→「利他」のご利益を教える


「どうしてこの部下は、自分のことしか考えられないのだろう?」


と思わされるような人がいます。


自分のやりたいようにやってみせる!という前向きな意思はあり、そのための努力もしているのでしょう。ただ、なにぶん視野が狭いため、知らず知らず同僚や部下に冷たく当たることが多く、だんだん周りもその人を遠巻きに見るようになる。社内からの協力も得にくくなってしまうのです。


このような部下と職場の人との関係性は、上司(あなた)と部下の関係性よりも重要な問題です。「職場全体から好かれない状況」は、部下にとっては大きなマイナスになるのですから。


「自分本位」「利他的」な社員には精神的に幼い部分があります。思考にも幼稚さが残っているでしょう。そのため、たとえば、「組織というのは、自分に割り当てられた役割を果たす責任があるので、自分の主義主張だけで勝手な行動をとってはいけない!」などという理詰めの苦言を呈しても、感情的に受け入れることができません。


では、どうすればいいのでしょうか?


当たり前の話ですが、「職場の人間関係」は「友人関係」とは違います。「自分の主義」という物差しを振る舞わさないのは、社会人としての常識。上司として指導していくべきは、この点です。


「そんなことを、わざわざ部下に伝えるのか……」と思わないでください。「この常識が、家庭が学校では身につかなかった人も少なくないのだな」と割り切って、マネジメントしていきましょう(職場の人間関係が良好になればチーム力は高まりますから、業績にも直結してくるはずです!)。家庭が学校といった「環境」が人を育てる部分はたしかにあるので、その「環境」を部下に与えてみてください。


方法は、二つあります。


まず、「部下の将来を、第三者のエピソードを通して示唆する」方法。


ポイントは、「間接的に示唆する」ことです。「組織に敵をつくるな」「職場で嫌われ者になるな」と直接的に注意するのではなく、第三者のエピソードを交えることで、部下に気づかせるのです。


前振りは、こんな感じです。


「○○くん、社会人としての『主義主張』があるのは当たり前だから、それはいい。でも、それを振り回さないほうがいい。定時以外には携帯に出ないのなら、トラブルが起きた時に迷惑のかからない方法を準備しておいてくれたら、それでもいい。いまのままだと、○○くん、君自身が損をする。せっかく仕事もできるし、能力も高いのに、周りに敵をつくってしまうと、その長所を発揮するチャンスをつかめなくなるどころか、逆に足を引っ張られることになるぞ――」


こんな話を続けて、「第三者のエピソード」を紹介します。


「これは、俺の後輩の話だ。学歴も高くて仕事のできるヤツだったけれど、やっぱり自分の主義主張にこだわりすぎて……。彼は営業だったんだけど、結局、技術部と工場に総スカンを食らって、みんな彼に非協力的になってたよ。そのうち、顧客に迷惑がかかるって理由で、大口顧客担当から外されたんだよね。その評判もすぐ広まるから、引き取る部もなくなって……結局、地方の出張所?一人拠点?の担当者なんだよね、今は」


そのエピソードに出てくる後輩は、20代の頃のことを後悔しています。そのあたりのことを「前例」として部下に話してあげるのです。


部下には、「自分のスタンスが組織や周りにどう評価されるか」のリアルなイメージが湧いてくるでしょう。将来の嫌なイメージが湧けば、続けて、「今の自分自身」を客観視できるようになるはずです。


二つ目の方法は、「好き嫌いを表に出すな」という禁止事項を命令するのではなく、「周りの人を味方につけろ」とポジティブな行動をアドバイスすることです。


「利己的」な思考や行動から「利他的」な思考や行動へと、ウエイトを徐々に高めるようにアドバイスするのです。


たとえば営業パーソンであれば、お客様から無理なオーダーを受けることもあります。


無理なオーダーであれば、納期も請求業務も例外対処になりますから、煩雑な事務作業が必要になりますが、これらの業務を行うのは大抵バックヤードのスタッフでしょう。


受注事務を担当するスタッフが「無理なオーダーに対応するのが難しい」と言っても利己的な営業パーソンは「お客が早く持って来いって言っているから、仕方ないでしょう」などと返す。そして、いつかスタッフさんたちの逆鱗に触れてしまいます。


その結果は、「○○さんの仕事なんて、やってやるか……」という非協力的な、無言の抵抗だったりします。


一方、「利他の人」は違う反応をします。


「自分の仕事を自己完結することなどなく、必ずフォローする裏方さんがいる」とわかっているからです。


「締切が過ぎていたのに、今回の請求を通してくれて、本当にありがとう、助かったよ。たぶん裏技を使ったんだろうけど、借りができちゃたね」といった労いの言葉も忘れません。


そもそも、「△△という、突発的な事態が起こりそうだ」ということを、あらかじめ報告なり、相談なりして、十分に相手の事をケアしているから、大きな問題にはなりません。重要なのは、お礼のケーキなどではなく、「常日頃」のケアと感謝の気持ちというわけです。


こんな利他の心は、チームに〝上昇気流〟をつくってくれます。「人は誰かに何かいいことをしてもらうと、それに報いるようなお返しをしたくなる」という返報性の法則があるからです。


そんな身近な実例を引きながら、利他的な思考や行動の意義を説く。そして、まずは部下に行動に移させてみることです。


「部下と職場の関係に何か変わったことはないか」を上司が問い続ければ、部下自身も周りとの関係性に気づいて、その言動を変えるはずです。