第2091冊目 1分で大切なことを伝える技術 齋藤 孝 (著)
- 作者: 齋藤孝
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2009/01/16
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- 自分の口癖をチェックする
私はふだんテレビを見ていると、反射的に、話している人の口癖が気になってくる。「あの」や「ええと」「うん」「まあ」が妙に多い人もいれば、例えていないのに「例えば」とか、逆に言っていないのに「逆に言うと」と前置きする人もいる。当人は話のつなぎとして無意識に使っているだろうが、聞く側の私としては、気になってくると煩わしささえ覚えてくる。
こういう口癖は、誰かに指摘してもらわないと気づかないものだ。そこで機会があれば、二人一組になってお互いの口癖をチェックしてみることをおすすめしたい。ある程度のお互いに話をした後で、「今、『ええと』を五回も言ったよ」などと指摘し合うのである。それを知るだけでも、かなり改善されるだろう。
もっとハードに修正したいなら、自分の話をテープに録音して聞いてみればよい。これは大変な苦痛を伴う。ふつうの神経の人なら「なんてムダの多い話し方なんだ」と我ながら呆れるだろう。
もちろん、話し言葉が書き言葉のように正確である必要はない。むしろそれでは、言葉の潤いや膨らみが消えて、かえって聞きにくい。しかし、少なくとも話し言葉が文章になっているかどうかは重要だ。本人は気づきにくいが、主語と述語の関係などにおいて、話し言葉は往々にしてねじれやズレが生じやすいのである。
一度、ほんの一分程度でも自分の話を録音し、それを文字に起こしてみてはどうだろう。たいていの人は「こんなことを話していたのか」と衝撃を受けるはずだ。その自己嫌悪を乗り越えて修正していけば、かなり精度の高い話し方が身につくだろう。
そこまでしなくても、と思われるかもしれないが、これはたいへん重要な訓練だ。意外に私たちは、自分を客観視してみる機会に乏しいのである。
- 「聞かれたことに答える」という基本ができているか
その延長線上で、「一分で話をする」ということも客観視してみていただきたい。
たとえば会議などで、各自一分の制限時間を設けて順番に発言していく。ふつうに話しているだけでは、その人の話がまとまっているかどかはわかりにくい。しかし一分という枠があれば、密度の比較ができるようになる。その意味では、就職試験などで行われる集団面接は効果的な方法といるだろう。
ただこの場合、「順番が後の人ほど不利になる」と一般には思われやすい。言いたいことが先に言われてしまう可能性が高いからだ。しかし、むしろ後の人のほうが有利ともいえる。前の人の話を踏まえて話せるからだ。むれまでばらついていた論点を整理・要約し、構造化しながら自分なりのアイデアを一つ加えるだけで、立派な意見として打ち出すことができるだろう。つまり、順番はさほど気にする必要はない。
それより問題なのは、聞かれたことに端的に答えていないケースだ。聞かれたことに答えるのは社会の最低限のルールである。それが守られていなければ、いくら話自体が立派でもムダになるだけだ。回りくどい答え方や、的を外した返答はカウントされないどころか、マイナスになる。
「そんなことは当然だ」と思われがちだが、実際のところ、まっとうな受け答えのできる人は意外に少ない。まずは自分で問いを設定し、回答してみるという訓練をおすすめしたい。さらに、「具体例を二つ入れて話せ」といった縛りをかければなおよい。
この練習を続けておけば、実際の問いに対し、自分なりの暗黙の問いや縛りを意識して話せるようになるだろう。相手の問いの意図を推しはかり、何が知りたいのかを汲み取る能力を磨くことにもなるはずだ。
私は「質問力」という概念を世に問い、結果として一般化したが、この質問力を自分に対して用いるということだ。次々に問いを生み出し、展開することで、他者の視点を自分の思考回路に組み込むことができるようになるのである。