第2089冊目 はじめてリーダーになる君へ  浅井 浩一 (著)


はじめてリーダーになる君へ

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  • 「ちょっとしたサイン」を絶対に見逃さない


以前、私の部署でこんなことがありました。


あるとき、たばこの売上をアップさせるために「10個まとめ売りを推進しよう」という方針を本社が出したのです。具体的には、ワンカートン(10個パック)を買ってくれたお客さまには、何かしらのノベルティグッズをつけて販売しようというわけです。


その戦略を、腹心がチームのメンバーに話していたのですが、あるメンバーの表情がイマイチ冴えません。私は黙って観察していたので、そのメンバーの表情の異変にすぐに気がつきました。


そこで私は、その部下に「ノベルティグッズを投入しても、10個パックのまとめ売りは難しいかな?」とさりげなく聞いてみました。


すると彼は「どうでしょうね。まとめ売りはいいんですけど、実際の現場では肝心のノベルティグッズがうまく活用されていないと思うんですよね」と言ったのです。


どんな商品にもノベルティグッズをつけて販売するというスタイルはよくあります。たばこの場合であれば、「10個パックを買ってくれたお客さまにはライターをプレゼント」といった具合です。


ところが彼が言うには、現場ではお客さまが商品を買ってくれた後に「こちらプレゼントです」と渡しているケースが多く、お客様はそこで初めてノベルティグッズの存在を知るというのです。これでは販売促進にまったく役立っていません。


そしれ彼は「店頭で販売している方にも協力していただいて『10個買うと、ノベルティグッズがついてきますよ』と口頭で勧めてもらうようにするべきだ」と言うのです。


彼の提案を生かして「ただ単にノベルティグッズを投入するだけでなく、もっと店頭の販売員さんとの連携を強化しよう」ということになりました。


その甲斐あって、あるスーパーでは「たばこを10個買うと、当店人気の液体洗剤がもれなくつきます!」と店内放送までしてくれるようになり、売上が7倍も伸びました。


そのきかっけとなったのが、ミーティングでの「彼の浮かない表情」でした。


もし、私自身が会社の方針を説明する役を担っていたら、その「浮かない表情」を見落としていたかもしれませんし、説明するのに手いっぱいで「ノベルティグッズを投入しても、10パックは売れないかな?」と根本的な質問をすることはできなかったでしょう。


どんなに風通しの良い組織でも、上司やリーダーが話しているときに「それはちょっと違うと思う」「わからないので、もう一度説明して欲しい」と部下が自発的に言うのは難しいと思います。多くは、その思いをグッとのみ込み、その場をやり過ごして終わりです。


しかし、人というの必ずちょっとしたサインを発しているものです。意見を言うまでに至らなくても、「ちょっと違うな」と首をかしげてみたり、「よくわからないな」と顔をしかめたりしているのです。そして、そのちょっとしたサインにこそ「大きな価値」「重大なヒント」が隠されていることが往々にしてあります。その小さなサインを見落とさず、チーム全体の問題としてとり上げるのは、やはりリーダーの仕事です。

  • チームの会話量を増やし、活性化させるには


チーム作りをする際、私はいつも「組織の会話量をいかに増やすか」という点を意識してきました。


ただし「組織の会話量を増やす」と言うと、どうしてもリーダーばかりが話すというパターンに陥りがちです。「チーム内の話し合いが大事」ということを学んだリーダーがさっそくミーティングを開いてみるのはいいのですが、結局発言しているのはリーダーだけ。そんな話をよく聞きます。


リーダーばかり(あるいは一部の人だけ)が発言し、その他の人は黙っているようでは組織の会話量が増えたことにはなりません。


組織、チーム全体の会話量を増やすコツはとにかくリーダーが「聞き役」にまわること。


前の項目で、説明は腹心にお願いするという話をしましたが、これもリーダーが聞き役にまわる1つの方法です。


リーダーは自分が発言するのではなく「いかにしてメンバーに話をさせるか」「それぞれの部下が発言する機会を作るか」を徹底的に考えるべきです。一人ひとりの発言量が少ない状態では、「正直で、助け合えるチーム」は作れません。


では、どうしたら一人ひとりの発言量を増やせるのか。もっとも単純なのは「発言する機会を与えしまう」という方法です。


私は第3章の部下育成のところで、長所を見つけることが大事だと述べました。どんな部下にも良いところがあるものです。それが業績に直結していなくても、意識、考え方、習慣、仕事のやり方などがチームに良い影響を与えていたり、取引先やお客さまに喜ばれているケースはたくさんあります。


たとえば、ある人がたばこの自動販売機を拭くときに、ついでに隣にあるジュースの自動販売機も拭いているとしたらどうでしょうか。言うまでもなく、この好意はたばこの販売には直結しません。


しかし、それでお店がきれいになって印象が良くなるとしたら、当然店主は喜んでくれますし、人間関係も良くなるでしょう。


こんな行為を見つけたら、私は感心して「どうして、こんなことをしようと思いついたの?」と本人に聞きます。


本人にしてみれば、何気なく始めた行為かもしれませんし、自社以外の営業員がやっているのを見て真似をしたのかもしれません。いずれにしても、その人の仕事へのとり組み方、考え方には見習うべきところがあります。


そして、私はその部下に「今度、チームのミーティングで発表して、みんなに教えてやってくれないか」と言うようにしています。


それだけで部下の発言は1つ増えますし、リーダーが言うより、その本人が発言するほうがリアリティもあり、メンバーへの影響力が高まります。


さらに、チームへ発表することで、みんなから賞賛され、認められるので、本人のモチベーションアップにもつながり、「もっと何かやってみよう」と新たな工夫を生むかもしれません。まさに良いことずくめです。


部下の良いところを見つけたら、チームの前で発表してもらう。


とても簡単な仕組みなので、ぜひ実践して欲しいと思います。


ここで大事なのは、まずはリーダーが部下の良いところ(業績だけでなく、プロセスも含む)を見つけることです。


その意識と観察力があれば、「チーム全員にシェアしたい」と感じる要素はいくらでも見つかります。そうやってメンバー一人ひとりの良いところを見つけ、どんどん発表させていけば、自然に組織の会話量は増えていきます。