第2074冊目 スタンフォードの自分を変える教室  ケリー・マクゴニガル (著), 神崎 朗子 (翻訳)


スタンフォードの自分を変える教室

スタンフォードの自分を変える教室

  • ルール違反の「形跡」が自制心を低下させる


私たちは、いかにもありがちな欲求――スナックを食べたい、買い物がしない、誰かを誘惑したいなど――よりも、ときには何気ない欲求に感染することがあります。オランダのフローニンゲン大学の研究者らは、たまたま通りかかった人びとを対象に実験を行った結果、このことが現実にさまざまな状況において確認されました。


実験の下準備として、マナーの悪い人たちがいたような形跡をわざと仕込んでおきます。たとえば、「駐車禁止」とでかでかと書いてある看板のすぐ脇のフェンスに自転車をチェーンでつないだり、「ショッピングカートは店内に返却してください」という表示のあるスーパーの駐車場にカートを置きっぱなしにしたり。


この研究によって、ルール違反も感染することがわかりました。研究者らが仕掛けたワナにまんまと引っかかった人たちは看板のルールを無視しました。他の人がやったことをまねして自転車をフェンスにくくりつけ、ショッピングカートを駐車場に放置したのです。


しかし、影響はそれだけではありませんでした。自転車置き場ではないところに自転車が停めてあるのを見た人が、近道のためにフェンスを乗り越え、通り抜け禁止の路地に入っていく姿が目立ちました。また、駐車場にカートがいくつも置きっぱなしになっているのを見た人のなかには、ゴミを投げ捨てていく人が何人もいました。このように、ひとつのルール違反はさまざまな形で感染していきます。ルール違反に感染した人たちは、ルールに従おうとせず、好き勝手なことをしたわけです。


他の人がルールを無視して好き勝手にふるまった形跡を見ると、私たちも衝動に負けやすくなります。つまり、誰かが悪いことをするのを見ると、自制心が低下してしまうのです(テレビのリアリティ番組のファンにとっては残念なニュースでしょう。何しろ高視聴率の3つのカギは、お酒を浴びるように飲んだり、派手にケンカしたり、他人のボーイフレンドを寝取ったりすることですから)。


誰かが税金をごまかしているのを耳にはさんだ人は、ダイエットをサボりたい気分になるかもしれません。制限速度をオーバーして疾走する車に次々と追い抜かれたドライバーは、少しくらいお金を使いすぎたってかまわないような気分になるかもしれません。


さらに重要なのは、実際に誰かがルール違反をしている現場を見なくてもルール違反に感染してしまうことです。病原菌をもっている人が通りすぎたあとも、ドアノブには菌がしばらく残っているように、誰かがルールを破った形跡を見るだけで、自分も感染してしまう恐れがあります。

  • 「鉄の意志をもつ人」のことを考える


自制心の強い人のことを考えると、自分自身の意思力も強くなることが研究によって明らかになっています。あなたのチャレンジに関して、模範となるような意思力の強い人はいますか? 同じ問題に取り組んで成功した人や、ぜひ見習いたいと思うよな意思の強い人はいますか(私の講座で意思力の強い模範的な存在としてよく例にあがるのは、卓越したスポーツ選手や宗教指導者、政治家などですが、次に説明するとおり、家族や友人のほうがモチベーションがアップするかもせれません)。


もし少し意思力を強くしたいと思うときは、お手本にしたい人のことを心に思い浮かべましょう。そして、鉄の意思の意思をもつあの人なら、こんなときはどうするだろうと考えてみるのです。