第2050冊目 逆算力 成功したけりゃ人生の〆切を決めろ  高岡 浩三 (著), おち まさと (著)


逆算力 成功したけりゃ人生の〆切を決めろ

逆算力 成功したけりゃ人生の〆切を決めろ

  • ハタキを持ってスーパーを回る


マギーブイヨンの話は若い人たちにもよくするのですが、こういう話をすると、若いうちから華々しい活躍をして、やりたい仕事ばかりをやっていたんだともう人もいるかもしれません。


もちろん、実際はやりたい仕事ばかりをやっていたわけではありません。私はもともとマーケティングの仕事をしたくてネスレに入ったのですが、入社した当初はハタキを持ってスーパーを回っていたこともありました。店に行き、ネスレ商品のキャップの上のほこりをハタキできれいにするのです。


当時はマーケティングという発想もあまりなく、「店で1本でも多く売れるように営業活動をしなさい」という世界でした。だから、ラベルが正面を向いていない商品は正面を向かせ、きれいに並べて、キャップに付いているほこりを取るわけです。


正直、「こんなことをやってていいのか」と思ったこともあります。ネスレに入ったのは、42歳までにマーケティングの分野で、できるだけ大きな仕事をするためです。もちろん、入社してすぐに大きな仕事ができるわけがありませんが、大学を卒業したばかりの若さですから東京の丸の内あたりを闘歩する姿を夢見たりもするわけです。


でも、どんな仕事もやってみると面白くなるものです。そして、与えられた仕事で一番になろうという目標が出てくる。若い人たちの中には、「会社に入ったはいいけど、ぜんぜん面白い仕事を任せてもらえない。もうやめてしまいたい」などと思っている人もいるでしょう。でも、自分がやりたいことを成し遂げるためには、やりたくない仕事をやらなければならない時もあるのです。


だからこそ、「自分が何をしたいのか」という「志」がとても重要になります。私がネスレを選んだのは、42歳で死ぬということもありましたが、それ以上にブランドを生み出している会社に入って、自分もその一員として歴史に残るようなブランドに関わる仕事をしたいという思いがあったからです。その思いは最終的にキットカットの受験生応援キャンペーンで実現するわけですが、そこに至るまでに20年かかっているのです。ここに行き着くまでには当然、知識も経験もいる。失敗も重ねて、「そうしてうまいかないんだろう」と試行錯誤もしました。こうした中でよくやく自分のやりたいことが実現するわけです。


目標といっても単に「○○になりたい」だけでは足りません。「自分が本当に何をしたいのか」を探してからでないと、なかなか本当の目標にはならないのです。


以前、テレビ番組に出演した際、若い女性から「女優になりたいのですが、どうしたらいいですか」と質問されました。確かに「女優」は大きな目標かもしれない。でも、大事なのは何のために女優になるのかということです。「人に感動を与えたい」といった「志」があったうえで「だから女優という職業を選びたい」というのであればいいと思いますが、ただ「何かになりたい」というだけでは難しい。「有名になりたい」とか「お金が欲しい」といったことだけだとやはり長続きはしないと思います。


これは会社員でも同じです。仮に入社したての新人に「私も社長になりたいです」と言われたら、まず私は「社長になって何をしたいのか」と聞きます。私自身は記憶にないのですが、実は私も入社の時に「社長が目標」と言っていたようです。しかし、これは単に偉くなりたいということではありません。先ほども書きましたが、私は42歳までにブランドに関わる大きな仕事をしたかった。そして、ブランドをつくる大仕事は社長の仕事だと考えていました。だから、「社長」と言っていたのだと思います。でも、自分がやりたい仕事をするためい社長を目指すのであれば、与えられた仕事は常に期待以上の成果を出さなければなりません。そのためにはどんなに小さな仕事であっても、最高の結果を出さなければいけないのです。


それあが、お茶くみであっても同じです。私が最初に配属された営業所には事務の社員はいませんでした。だから、一番若い私が毎朝お茶くみです。上司や先輩たちのコーヒーのミルクや砂糖の好みは全て覚えました。どうせやるからには、「高岡が入れたコーヒーが一番おいしい」と言われたい。そのためにはどうすればいいのかを考えたのです。お茶くみのようなちょっとした仕事であっても目標を決めてやる。そういう積み重ねが、最終的に大きな仕事に結びつくのだと思います。