第1982冊目 日本はこうしてオリンピックを勝ち取った! 世界を動かすプレゼン力 [単行本(ソフトカバー)] ニック・バーリー (著), 佐久間 裕美子 (翻訳)


日本はこうしてオリンピックを勝ち取った!  世界を動かすプレゼン力

日本はこうしてオリンピックを勝ち取った! 世界を動かすプレゼン力


パフォーマンス――優れたストーリーで練習を補強する


プレゼンやスピーチをすることは、舞台に立つことに似ています。つまり、どんなに大切な話をしていても、話し方が悪ければ台無しです。逆い言うと、ひとたび原稿ができあがったら、それを一〇パーセントも二〇パーセントも高めることができるのが、パフォーマンスです。


これは、実際に舞台に上がって人の前に立たなくても、同じことが言えるかもしれません。


社会に出るということは、いつも他人にジャッジされるということでもあります。自分という人間を正しくしっかりと相手に伝えるためには、好む好まざるとにかかわらず、ある程度の「アクティング(演技)」が必要になります。ですから、プレゼンの技術の多くは、実社会にも通じるということを理解してください。

  • 練習があなたの個性を演出する


優れたスピーカーは、プレゼンの中で、自分という個性を発揮する術を知っています。自分の個性を活かしながら、自信を持って、快適に話をしている、そんな自分を演出する必要があります。


壇上に立ったとき、ただ棒立ちで台本を読むだけだったり、話している本人が居心地が悪そうにしていたりしたら、オーディエンスも居心地の悪い思いをします。緊張というものは、伝染するからです。ですから、事前に練習を繰り返し、手のジェスチャーや、笑顔、アイコンタクト、それに壇上を歩く立ち居振る舞いまで、自分ができる最良のパフォーマンスを心がけましょう。


特に、笑顔はいちばん大切なパフォーマンスのひとつと言えるでしょう。さまざまなバックグランドを持つオーディンスにとって、言葉やジョークは通じない場合もありますが、笑顔だけは、どんな文化でも通用する数少ないパフォーマンスです。


自然なプレゼンテーションというのは、自然な笑顔によって生まれます。自信を持った笑顔は、オーディエンスをリラックスさせるのです。


上手なプレゼンをする能力は、天性のものだと思っている人は少なくないはずです。けれども、スティーブ・ジョブズにしても、バラク・オバマ大統領にしても、プレゼンがうまいと思われている人物は、みんな練習を重ねて、そのスキルに磨きをかけてきました。


つまり言い換えれば、プレゼンは学べる技術なのです。練習を重ねることが自信につながる、という最大の例は、東京五輪誘致チームのパフォーマンスだと思います。


私がコンサルタントとしてこの仕事を引き受けた時点で、プレゼンチームのメンバーたちは、アナウンサーという仕事をしている滝川クリステルさんと、海外でスピーチをする経験の多い安倍首相以外、全員が外国語でのスピーチはまったくの素人だったと言えます。それは、練習を重ねることで、あるだけの堂々たるパフォーマンスを実現しました。


特に、プレゼンの終盤で竹田理事長の締めくくりのスピーチを見たとき、私は練習の成果を感じずにはいられませんでした。普段は慎み深く控えめな竹田氏が、あれだけ自信に溢れるスピーチをしたのですから。


自信というものは、聴衆の心を動かす効果があるのです。


自信があるように見せるワザはいくつもあります。


たとえば手のジェスチャーを使う、笑顔を差し挟む、オーディエンスの目を見る、会場を見回す、といったことです。ビデオの撮影がされていたり、中継がある場合は、カメラを見ることも忘れてはいけません。

  • 練習のしすぎということはない


もうひとつ、忘れてはいけないことがあります。それは、プレゼンのチャンスは一度しかないということです。


英軍の規律に「準備を怠ることは、失敗の準備をすることだ」という言葉があります。スピーチは、何度練習をしても練習しすぎることはありません。一人の練習をして、うまくいったら、家族の前でまずは話してみましょう。


言いづらい言葉があれば、何度も練習する。それでも無理なら、言いやすい言葉に書き換える。特に、招致のプレゼンのように普段慣れない外国語を使う場合には、日本人には発音が難しい「r」と「l」の入った単語を使うのを避けたり、リハーサルで言いにくい単語があったら他の単語を探したりしました。


現場に着いたら、コンピュータがきとんと動くか、プロンプターは機能しているか、事前に必ずチェックしましょう。チャンスがあれば、本番と同じ会場で一度はリハーサルしたほうがいいでしょう。練習をすればするほど、自分にも自信がつきます。自信がつければつくほど、失敗の可能性は減るのです。


五輪の最終プレゼンのときは、チームメンバーのほとんどが、最後の一週間に、それそれ五〇回以上リハーサルの機会をもうけました。五分のスピーチなら、一時間に一〇回は練習できるのです。


スポーツの世界では「筋肉の記憶」といって、練習を重ねることで体に覚えさせるという概念がありますが、これは、スピーチの世界でも同じです。口や体がやるべきことを覚えていれば、その記憶に頼ることができるし、そうすれば、パフォーマンスの精度を上げることができるのです。