第1956冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール [単行本] ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・イェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール


手本を活用しよう


チームの練習を初回から成功させるために、正しい方法で設計したいとき、スキルをモデル化する(手本を示す)と教えやすい。一見きわめて単純でも、説明がむずかしいことはたくさんある。レシピどおりに料理を作ることを考えてみよう。パンを焼いたことのないジェームズが、ある日パンを一斤焼いてみようと思い立つ。料理の本を引っ張り出して、レシピを見つけ、やってみることにする。一見したところ、レシピは簡単そうだ。小麦を3カップ量る。オーケイ。大きめのボウルに湯を大さじ3杯。いまのところ上出来。ひとつずつ進んでいくが、すぐにわからなくなる。レシピには「イーストを試す」と書いてある。え? どうやって? ジェームズは読み進める。レシピには、生地が固く粘り気を持つまでこねてはいけないとある。これではまちがった状態はわかるけれども、最高の状態がどういうものかわからない。レシピは次に「生地を寝かせて膨らませ、また叩く」と指示するが、叩いていいのだろうか。本当に? この瞬間、ジェームズはレシピにしたがってできるのはここまでだと気づく。パンを焼きたければ、誰かくわしい人に教えてもらうしかないと。


ジェームズに必要なのは「手本」だ。料理のレシピは、すでにテクニックを習得してやり方をしっている人には大いに役立つかもしれないが、素人には、誰かが実際に作っているところを順を追って見ることがどうしても必要だ。そこで料理番組が出てくる。料理番組の人気が高い理由のひとつは、手本を見せてくれることにある。


どんな分野にも、どんな職業やパフォーマンスにも、手本を通してやさしく効率的に身につけられるスキルやテクニックがある。手本がなければ学ぶことがほど不可能なものもある。自分の専門分野について考えてみてほしい。手本が必要なことはないだろうか。実演しないと教えられないことは? パン生地をこねる、針に糸を通す、ボールをドリブルする、顧客からの電話に応答する、マイクロチップエッチング処理をする――こうしたスキルを、手本を見せずに教えるのは難しいはずだ。


しかし、手本が逆効果になることもある。私たちは親として、コーチやマネジャーとして、指導を求める子供や部下たちから観察されている。自分がうっかりまちがえた手本を見せてしまったらと思うと、身がすくむこともあるだろう。1990年代、NBAのスター選手のチャールズ・バークレーは「おれは手本にならない」と宣言した。しかし、もちろん彼は手本だった。リーダーになったり、上司からはほかの従業員の訓練をまかされたり、みずからチームやコーチを手本にして行動している。


私たちは、手本の力で練習の成功が加速するのを何度も目にしてきた。最高の才能開発者は、手本にしたがう私たちの本能をうまく利用し、練習の主要な部分に意図的に使って、チームの成長をうながす。彼らは自分のが見られていることを認識していて、チームに影響を与える行動を意図的に選び、形作っている。また、そうしない場合の問題点も理解している。見習うべき手本をはっきりと示さないと、学ぼうと意識していようといまいと、勝手にもとからある手本にしたがってしまう。教育で言えば、教師たちはもっとも成功するやり方ではなく、たいてい自分が教えられたとおりに教えるものだ。