第1954冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール [単行本] ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・イェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール


実戦練習ではなく反復練習でこそ上達する


校長に昇進したばかりのジョージは、初めての職員会議をおこなう予定だ。重要な会議である。みずからのリーダーシップと、職員一同、協力し合って前向きに働く先例を示したい。と同時に、手際よく進めて、校内の真の問題について質の高い議論をしながら、校長として職員の意見をしっかり聞き、重んじていることを印象づけたい。


会議に備えてジョージはふたつのことを練習する。まず、ひとりで議題を最初から確かめ、意見やコメントを求めるところで、職員が返しそうな答えをひとつずつカードに書き出す。そしてカードを1枚ずつめくっては読み上げ、職員のコメントを言い換えたり、部分的に強調したりする。たとえ賛同できなくても真摯に耳を傾けていることを示す〈アクティブ・リスニング(傾聴)〉のスキルを使って、返答の練習をする。口調が適切でなかったり、よいコメントではないと感じたりしたときには、すぐにカードを束に戻してやり直す。それを何度かくり返し、〈アクティブ・リスニング〉が自然にできるようにする。


次にジョージは近隣の学校で校長を務めるカーリーに助力を求める。カーリーは、本番だと思って会議の最初から最後までやってみ、とジョージに言い、彼女のほうはさまざまなメンバーの役を演じる。会話に加わるきっかけを見つけては、いろいろコメントする――いくつかはジョージのカードから、ほかは彼女自身が考えて。カーリーはときに熱心に賛同し、ときに疑い、ときに混乱したふりをするなど、文言や口調に変化をつける。ただし、あまりよくなかった応答も途中では訂正さえない。出席者の気分は予測できず、ジョージは本来の議事進行からはずれたあらゆることに対応しながら、それまで取り組んできたすべてのスキルをリアルタイムで、長時間にわかって使う練習をすることになる。これは一種のリハーサルだ。


前半は「反復練習」だ。反復練習は現実をあえて変形した設定でひとつのスキルに最大限集中し、意図的に磨きをかけるためにある。ひとつのスキルに向ける精神的能力の最大化をめざす。練習1分間あたりの密度を高め、生産的なスキルの反復回数を増やす。ジョージは実際の会議では次々とテンポよくコメントをさばけない。発言はばらばらになるし、すべてに答える必要もない。〈アクティブ・リスニング〉のスキルも毎回使うわけではない。


自分の返答を改善するチャンスはもちろんあいが、ジョージみずから考えた反復練習では、本番(職員会議)を変形させて、もっとも鍛えなければならない分野に集中した。返答すべきコメントの数を増やしてまとめ、意図的な接近戦の反復練習を通して、デイビッド・イーグルマンの言う「機械的アルゴリズム」を育成した。気に入らない返答をすぐ修正できたので、成功体験を組みこむことができた。要するに、人工的な環境にスキルを当てはめ、集中してスキルを伸ばすことを選んだ。これを飛ばして後半の練習だけをしていたら、中途半端になり、上達はできなかっただろう。


これに対して「実戦練習」は、状況の一部を取り出さず、複雑さと不確実性をすべて含めたうえでの練習だ。カーリーがジョージにやらせた練習がこれである。〈アクティブ・リスニング〉の機会は予測できないときにやってくるので、練習量が減ってしまうが、職員会議で実際に使えるどうかがわかりやすい。ほかのことを考えていてもそのスキルが使えるか、予告なしでも対応できるかといったことがチェックできるからだ。そのためにカーリーは、本番の会議でジョージが出会いそうなさまざまな声や口調、話題を交えた。実戦練習のあいだ、たとえジョージが自分の返答を下手だと思っても、中断して言い直すことは認めなかった。実戦練習では通常、おもなイベントの順序、待ち時間、実技の場所、邪魔になりそうな問題など、本番全体の流れの主要な面を再現する。実戦練習のなかでいくつかの条件を極端にしてもいい。たとえばカーリーは、ジョージの想定を超えるような、とりわけ頑固な職員を演じるかもしれない。プロスポーツチームの実戦練習では、選手に心の準備をさせるために、極端に大きな観客の声を放送することもある。