第1942冊目 口説きの技術 (角川oneテーマ21) [新書] 山路 徹 (著)


  • 低い声は、女をまいらせる


私の場合、意識して自分の話し方をつくっているわけではありませんが、声や話し方でも得をしている部分は大きいようです。


自慢話のようになりますが、電話で話している相手から「その声に、まいっちゃう」と言われてこともあるくらいです。


以前、私が出演していたバラエティ番組で、私に内緒で、私の声を日本音響研究所の鑑定に出していたケースがありました。男性の声は一二〇〜一五〇ヘルツくらいが普通だそうですが、私の声は平均値が六〇ヘルツで、相手を心地良くさせる周波数だと解説されました。


日本音響研究所鈴木松美所長によれば、「全体として張りのある声ではないけれど、ここ一番というところで張りが出る。意識はしないで、知らず知らずやっているものと思われるが、それによって要点がわかりやすい話し方になっている」とのことでした。


別の番組で、秋吉久美子さんに「なんでそんなにモテるんですか?」と聞かれて「自分でモテるという意識はないんですが、人の相談事にはよく乗るほうです」と答えたときに、国生さゆりさんから「その声だ!」と言われたこともありました。


そのときには秋吉さんからも、「うん、催眠術にかけられそうだもんね」と笑っていました。


催眠術の話はともかく、人を安心させられる声だとはいえるのかもしれません。

  • うまく話そうとしない!


エッセイストの小田嶋隆さんは、「山路徹という人は、もっと叩かれてもいい立場なのに、それほど叩かれていない」「それはあの声には誰にも逆らえないからだ」「あの声は、新興宗教の教祖たちが持ち合わせているそれに近い」「低い声のなかに微かなビブラートがある」というようなことを書いていました。正確な内容や表現は覚えていませんが、実に細かい分析で、分析されている本人としてこそばゆい気持ちになってくらいです。


また、東京の渋谷に期間限定で『モテ声カフェ』がオープンした際には、一日店長をやってほしいという依頼を受けたこともありました。その件については震災に影響もあり実現しませんでしたが、私の声をパソコンに取り込む予定もしていたそうです。


このように声で得をしているのだとすれば、そんなふうに生んでくれた親に感謝すべきなのでしょう。


低い声のほうがいいからといって、意識的に低い声で話そうとすれば、おかしなしゃべり方になりそうなので、それはお勧めできません。ただ、やはり意識としては、人を安心させられるような落ち着いた話し方をするのがいいはずです。私にしても、発声はきちんとして早口になってはいけない、という意識は持っています。


そして、もうひとつ心がけているのは、「うまく話そうと思わない」ことです。


私の本業はインタビューをする機会も多いのですが、うまくまとまった話を饒舌に聞かされると、心に届くものがなく、説得力がなくなるようにも感じられます。


それよりは、話し方はつたなくても、その場でよく考えながら、つっかえつっかえであっても、自分の言葉を絞り出そうとしてくれたほうが心に響いてくるものです。