第1364冊目 総理への宿命 小泉進次郎 (一般書) [単行本] 大下英治 (著)



進次郎は、特定の人物を贔屓したりせず、平等に接することを徹底した。


マスコミの取材も同様だった。進次郎は、基本的に一対一の取材はすべて断っている。ぶら下がり取材も単独では受けず、三人くらいまでまとまって来た時は受ける。ただし、国会内の場合は記者クラブがあり、一社が取材すれば全社分の代表取材になるため応じる。


普通であれば、親しい人や強引な人に圧されて対応に偏りが出てしまうものである。が、進次郎は、こうした点を非常にハッキリとさせている。誰にでもできる対応ではなかった。






平成二十五年七月二十一日、各テレビ局は参院選の投票が締めきられた午後八時前後に特番を組んだ。その中でもっとも視聴率を稼いだのは、ジャーナリストの池上彰がメーンキャスターを務めたテレビ東京の『池上彰参院選ライブ』だった。


事前の仕込みも充実しており、池上は女優の宮崎美子を連れて小泉進次郎青年局長の地方遊説に密着取材を敢行。その演説術を「ダジャレ」「方言」「ご当地ネタ」「地方重視」「自民党批判」と分析しながら、「政策が入ってない。活字に起こすとたいしたことを言っていない、でも聞いていると感動する」とバッサリ斬った。


また池上は、進次郎の?あざとさ?についても解説した。


「みんなが黒スーツの中で、一人白シャツで目立つでしょ? そして長袖をたしく上げしている。半袖じゃなく長袖をたくし上げている所が、ポイントなんですよね」


移動中のフェリーで、池上は進次郎の単独インタビューにも成功し、小泉進次郎の戦略と本音に迫った。


「地方遊説は、将来の基礎固め?」


進次郎が答えた。


「すべての仕事が、血肉となって自分のためになる」


池上が、さらに聞いた。


「男の嫉妬はすごいでしょ」


進次郎は、少し間を置いてから口を開いた。


「政治の世界はいろいろな声が耳に入るが、聞かないふりをするのも一つの人生訓。鍛えられ耐えながらやっていきます」


池上が突っ込んだ。


小泉進次郎を演じるのもつらいですね?」


進次郎は、冷静に答えた。


「演じているように見えますか? 自分で選んだ道ですから、その中でみんなに信頼されるように一生懸命頑張ります」


番組では「池上彰小泉進次郎の応援演説に密着」と、まるで池上が単独で取材を行ったような表現をしていたが、池上は各社取材陣の一人として参加しているに過ぎなかった。


また、進次郎は、一対一の取材には応じないが、池上は船上という逃げられない場所で単独インタビューを敢行した。こうしたところに、池上のジャーナリストとしてのしたたかさが表れていた。


産経新聞の山本雄史記者は、池上が生テレビ放送で発言した「進次郎には政策がない」という批判に首をひねった。


〈進次郎さんは、まだたった三十二歳だ。政治経験の浅い若手議員に対して「政策がない」というのは、ちょっと厳しい〉


進次郎に関する本『小泉進次郎の闘う言葉』を出版したノンフィクションライターの常井健一も、池上と同様に進次郎には政策がないと言っていた。池上や常井のようないわゆる玄人的な人たちは、進次郎に対してかなり厳しい意見を持っている。


が、山本記者は、進次郎があえて政策を語らずにいることを知っていた。普通、若手議員というものは、こぞって政策を口にしたがるものである。が、進次郎が政策について語るようになれば、青年局はたちまち派閥色に染まってしまう。進次郎は、そのあたりのことをよくわきまえているのだった。