第1286冊目 仕事力 青版 (朝日文庫) [文庫] 朝日新聞社 (編集)


仕事力 青版 (朝日文庫)

仕事力 青版 (朝日文庫)


いっときの恥を突破する勇気――石原郁夫


責任感が強くて、自分の仕事に熱心な人ほど陥りやすいつまずきというものがあります。それは問題を一人で抱え込んでしまうこと。例にもれず私も課長になりたての時期に、大いに苦しみました。


課長昇進までの仕事の中で自分に自信がついたし、社内で評価される成果も上げられたので、自分がこの会社を担っていこうと力が入ってしまったんですね(笑い)。日々の業務には目に見える問題も見えない問題もあり、私はそれをただ一人で背負い込んでしまいました。体調を崩し、周囲との歯車をかみ合わない。自分では外に弱みを見せていないつもりだったのですが、ある日先輩から呼び出され、諭されました。「肩の荷は分かち合うものだよ。そうすることで仕事の内容や幅がもっと大きくなるから」と。


謙虚になって周囲を見渡せば、いろいろな能力を持った上司、同僚、部下に囲まれているのに、助けて欲しいと言えなかった。引き受けたからには弱音は吐けないと気負っていた自分がいました。


いざ問題を分割して考えてみると、この問題なら彼が専門だから頼める。別の問題はあの人に相談できるとゆだねていくことができた。悩みを打ち明ければ、組織の人間は私を責めるどころか、次々と知恵を集結してくれるのです。哲学者デカルトが『方法序説』で説いているように、困難は分割せよというのは本当でした。私はこれを「困難の因数分解」と呼んでいるのですが(笑い)、こうして仲間と困難を共有することで、感動と情熱も共有できるのです。


組織で専門家になる自分の領域を探せ


困難の分割を真剣に考えたとき、上司や同僚がいかに専門家として能力を磨いていたか、改めて目を開かれました。組織というのはいろいろな意味でプロが集まって強くなるものだと実感したのです。


ある極めて小さな領域でいいと思うのです。経理の一部について、システムの一部について、代理店さんの実情について、つまり何でも良い。本人が気づいていないうちに、いつのまにか社内の人間が認知していることもある。もちろん自分でははっきりと目標を定めて3年、5年と専門性を確立していけば、そこにまた人や仕事が集まってきます。


だれも自分を認めてくれないと感じていたら、得意領域をもう少し絞り込んでもいい。ただ簡単に途中で放り出さないぞと肝に銘じて、続けていくことです。


仕事の力は、ゆっくりと上昇線を描いていくものではありません。毎日少しずつ進歩が見えるわけではない。


それはまるで階段のように、ある平坦な距離をずっと進んでいくと、ぐっと直角に一段高い所へ足が届くような進化です。語学でもそうですが、ある一定量の学習が足りると急に聞き取れるようになる。継続して自分の中に蓄積することで、必ず階段は高くなり、目の前の視界が開けますよ。