第1251冊目 武器としての交渉思考 (星海社新書) [新書] 瀧本 哲史 (著)


武器としての交渉思考 (星海社新書)

武器としての交渉思考 (星海社新書)


相手の譲歩は、ひとつのメッセージ


相手が譲歩をしてきたときに、こちら側はどう振る舞えばいいのでしょうか?


まずは、即座に受諾しないことが大切です。


相手の譲歩があまりにも魅力的な提案だったとしても、けっしてすぐに受けてはいけません。「本当にそんなラッキーな提案をしてもらっていいの?」と思っていても、表情には出さずいったん「考えさせてください」と言うべきです。


なぜかといえば、そうすることで相手側からさらなる譲歩が引き出せることがあるからです。


もうひとつは、その譲歩の背景を分析するためです。


なぜ相手はその譲歩ができるのか?


じつは相手にとって、その譲歩は大した損ではなく、その裏にこちらの知らない何かがあるのではないか、と考えるのです。


さきほどの車の保険の例でお話したように、相手側にとっては無料で自動車保険をつけることで、こちら側の保険切り替えの時期の情報を手に入れる、という真の目的が隠されているケースもあるからです。


交渉では、「譲歩をした」ということ自体が、ひとつのメッセージであり、情報になります。相手側はその譲歩によって、こちら側にどんな行動を期待しているのか、相手の頭の中を想像することです。


また、すぐに受諾してしまうと、相手側が「せっかく譲歩したのに大した意味がなかったのか」と思ってしまい、不満が残ります。


みなさんも、ビックカメラなどの家電量販店に行って、「このパソコン、2割引きにしてもらえませんか?」と店員に頼んだとして、「いいですよ」とすぐに値引きをしてくれたら、「本当はもっと安くできたんじゃないか? 3割引ぐらいいけたかもしれない」と感じてしまうことでしょう。


店員も慣れたもので、お客様にそういう不満を持たせないために、「2割引ですか……。うーん、ちょっと厳しいですが、フロア長に相談してきます」などと言って、少し時間をおき、「フロア長からこの付属品もご一緒にご購入していただければ、2割引きオッケーとの返事をもらいました」といった返答をすることがよくあります。


じつはその商品は在庫がだぶついていて、2割引で売れれば万々歳だったとしても、そういうそぶりはまったく見せません。そうすることで顧客も結果的に「いい買い物をした」と満足度を高めることを知っているのです。


お客様の立場でいえば、譲歩を受ける場合でも、相手に「譲歩しすぎたかな」と思わせないようにすることが大切です。


本当は「2割も引いてもらえてラッキー!」と思っていてもぐっとこらえて、たとえば「えー、2割だけですか。じゃあ、ついでにオマケで何かオプションをつけてくださいよ」と頼んでみるのです。