第1197冊目  野心のすすめ (講談社現代新書) [新書] 林 真理子 (著)



不採用通知の束を宝物に


ここまで読んでいただいて、野心を持つと何かと良いことがあるかもしれないと、少しは思ってくださったかもしれません。しかし同時に、私はこんな声を聴こえてくるような気がします。


「だって、ハヤシさんが有名になったり成功していったのは、まだまだ日本が元気だった頃のお話じゃないですか!」


はい。その通りです。これにたいしては残念ながら、いかなる論拠をもっても反論できないと思います。まさか、親の世代よりも子どもの世代のほうが貧しい時代がやって来るとは、自分が若かった頃には想像もつかなかったことです。


私が駆け上がって来たのは、日本という国が右肩上がりで、もっともっと自分たちは幸せになれるんだ、と信じていることができた時代。いくら政治が変わったって、まだまだ「閉塞感」という言葉がいちばんしっくりくる現在とは大違いです。


おまけに私は、つい、「二流三流ではなく、一流の会社に入ることを目指して」などと声を大にして言ってしまうのですが、いまはたとえ一流の大学を出たって、なかなか社員としては雇ってもらえず、非正規雇用者としてしか働けない人が多い。いくら野心を抱け、と若い人の背中を押してみたところで、「そんなの無理じゃんか!」と言われれば、それでおしまいになってしまうのはわかっています。


でも、あえて、女ドン・キホーテと言われようが(激安の女という意味ではありませんよ)、野心を持つことを私がすすめ続けるのは、自分が何も持っていないところからのスタートだったということには自信があるからです。


時代が時代だけれども、たとえばいまはインターネットがある。私の知り合いでも、人気ブロガーだった知名度を元にビジネスを始めて成功している女性がいます。また、最近は海外で就職する日本人も増えているそうですね。


せめて、正真正銘ゼロからスタートした私の話から何かを感じて、野心を持ってもらうことはできないだろうか――。それを信じて、再び本論に戻りたいと思います。


「フリーター」という言葉もまだ無かった時代、無職の貧しい女の子のお話から始めます。


就職活動の時を迎え、出版社や銀行など四十社以上の就職試験を受けまくった私は、のんべんだらりと大学時代を送ったツケで、見事に全社から不採用通知を貰いました。


太った身体にトロい顔。若い女の子が大なり小なり持っていそうなかわいらしさは持ち合わせていませんでしたし、何の資格も持っていない、おまけに大学の成績も悪かった女を社員として雇ってくれるほど、世間は甘くはありまえんでした。面接に行ってもゴミのように扱われたものです。