第1196冊目  武器としての交渉思考 (星海社新書) [新書] 瀧本 哲史 (著)


武器としての交渉思考 (星海社新書)

武器としての交渉思考 (星海社新書)


どうすれば給料を上げることができるのか?


バトナについてより具体的に理解するために、つぎの問題を考えてみましょう。

練習問題
営業担当のAさんは、社内でもトップクラスの営業成績をあげています。しかし、同期の社員と給料にまったく差がなく、不満に感じていたので、社長と上司に掛け合い、給料10%アップの確約を取りつけました。これは、社内規定でいえば最高の上げ幅になります。年俸でいうと50万円ぐらいの昇給ですが、Aさんはさんは100万円はアップしてもらいたいと思っています。Aさんはこの提示を満足して受け入れるべきでしょうか? それとも、満足できないとすれば、どういう条件を相手に提示すればよいでしょうか?


この課題はきわめて現実的です。明日からでもすぐに使えるノウハウが凝縮されています。もっとも、みなさんの勤める会社の社長は困ってしまうかもしれませんが……。


Aさんの立場に立ったとき、会社からの昇給オファーを受け入れるべきかどうかの基準は、他社と比べてどうか、という視点で決まってきます。


つまり、「同業他社でAさんが同じ成績をあげたとして、どれぐらいの給料のオファーがあrか」という「バトナ」の存在が、まずはポイントになってくるのです。


Aさんは仮に他の会社に移るという選択をした場合と、自社に残った場合、その金額を比較することで、交渉の落とし所を探ることができます。


他社がもっと良い給与を出す可能性が高いのだとすれば(バトナのほうが現在の条件より良いのだとすれば)、Aさんは交渉から降りたとしても問題はありません。


無理して会社と合意する理由がないわけです。


だから上司に「私はこういう理由で合意する必要がありません」という、ある種の「脅し」をすることもできるようになります。


それでは、昇給率が「10%」ではなく「11%」ならばいいのかといえば、それも違います。なぜかといえば「Aさんを雇わなかった場合にその会社が失うものが、もっと大きいかもしれない」からです。


Aさんが会社にもたらしている利益が、年間3000万円だったとしましょう。


すると、Aさんに与える「給料のプラス100万円」をケチったためにAさんが辞めてしまって、その結果、3000万円の利益を失うぐらいなら、Aさんに100万円を支払うことは合理的な判断となります。


しかし当然ながら、交渉となれば、会社側も自分たちのバトナを探して比較してくるでしょう。


Aさんを雇わずとも、同じぐらいの営業スキルを持つ人がいて、いまのAさんの給料プラス50万円で雇えるのであれば、100万円アップを主張するAさんと合意する必要はありません。


会社側に「他の人を雇えばいい」という選択肢があれば、Aさんの立場は逆に弱るなるわけです。


つまり交渉とは、その交渉が決裂したとき、自分のと相手側に、それぞれ他にどんな選択肢があるのか、その選択によって、何が手に入るのかで決まるのです。


交渉が決裂してしまうより良い条件が相手に提示できれば、相手側はその提案を飲まざるをえなくなります。その逆に、交渉が決裂しても相手側はまったく痛くないのであれば、勝負にならないわけです。