第1155冊目  理系のための口頭発表術―聴衆を魅了する20の原則 (ブルーバックス) [新書]R.H.R. アンホルト (著), 鈴木 炎 (翻訳), I.S. リー (翻訳)


理系のための口頭発表術―聴衆を魅了する20の原則 (ブルーバックス)

理系のための口頭発表術―聴衆を魅了する20の原則 (ブルーバックス)


大声を出すコツ


声の大きさと話す速度、この2つは、必要なら、ただ注意を払うだけで容易に調整できる要素である。だが、私が指導した多くの学生は、声が小さすぎて、最前列の聴衆にしか聞き取れなかった。セミナーでは声を大きくすることが不可欠だ。実際、声がデカすぎた科学者など、聴いた覚えがない。すべての発表者へのアドバイスは、もしマイクが用意してあれば必ず使え、ということである。あなたと聴衆のどちらもが、楽になる。


小声で話す癖は、しばしば、内気な性格の表れである。ある小声の学生のために、私は、来るべき発表に向けて、こんなリハーサルをした。長い廊下の端に彼女を立たせ、私自身は、反対の端に立ったのである。私に聞こえるようにするためには、彼女は、文字どおり怒鳴らなければならなかった。はたして翌日の本番で、彼女はちゃんと大声で話し、声を届かせることができたのである。彼女にとって、大声は、やはり不自然な感じだったけれども、前日に怒鳴ったおかげで、そこそこ気にせずにできたわけなのだ。ただ、声を大きくした、それだけで、彼女の発表は素晴らしいものになったのである。


同様の薬が、同じように小声の、別の学生に対してもよく効いた。われわれの学生セミナーが、通常、40人ほどが入れる部屋で行っている。だが、リハーサルでは、その学生を隣にある収容能力数百人の大ホールへと連れてゆき、ただっ広い演壇に立たせた。私のほうは、客席最後尾、いちばん遠くに陣取る。彼は、やむなく大声を張り上げる。そして声を遠くへ投げることで、自分の置かれた広大な空間に、次第に慣れていった。次の日は本番。彼には、こぢんまりした発表会場が、よっぽど居心地よく見えたようだ。ほかの学生と同じように、大きな声で、素晴らしい発表ができたのである。さらにまた、別の学生の場合には、私はボール紙で「もっと大声で」と書いた小さなサインを作り、必要に応じてヒラヒラさせ、発表者に合図を送ったものである。ところで、そもそもこのセミナー用の小部屋というやつがまた、ほかの多くの部屋と同様、天井が低くて換気装置もうるさい。音響も、ひどいもんだ――発表者から5メートルも離れていないのに、聞き取るのに苦労するのだ。声を張り上げ、不自然なくらいの大声を出さなければ、後列まで届きはしないのである。


はっきり発音することと、目を合わせること。この2つが、声を遠くへ届かせるために、最も大切な要素である。聴衆と目を合わせつつ、個々の文章中のすべての単語を、ゆっくりと、明瞭に発表する。わざとそうするとき以外は、もごもご言ったり、ささやいたり、語尾を濁したりはやめよう。だが逆に、聴衆から目を離さず、注意深く言葉を継ぎながらも、突如として声を落とし一言二言やるのは、注意を引く手段として使ってもよい。聴衆は、秘密を打ち明けられ、内部情報を手に入れた気分になる。声を潜めると、聴衆は身を乗り出すというわけだ。言うまでもないが、この手は、たまにしか使えない。