第1146冊目  はじめての後輩指導―知っておきたい育て方30のルール [単行本]田中 淳子 (著)


はじめての後輩指導

はじめての後輩指導


理解度の確認にはやらせてみるのが一番


「いま説明したこと、わかった?」


「ちゃんとできますか」


こんな質問の多くは意味がないものです。部下や後輩は、よほどのことがないかぎり、「わかりました」「大丈夫です、できます」と答えるものだからです。まったくわからなかったとか、絶対にできないと思う場合は、「よくわかりません」「自信がありません」などと正直に答えるでしょうが、なんとなくわかった気がする、たぶんできるだろうと思うと、「はい」と答えてしまいがちです。


ところが、「はい」という返事を聞いて安心していると、しばらくたったときに、少しも理解していないことがわかることがあります。あやふやな理解で臨んでいるので、多くの勘違いが起こります。上司とすれば、「どうしてできないの。わかったって言ったじゃない」と言いたいところでしょう。しかし部下や後輩からすれば、たとえ多少不明なところがあっても、自分からは「わかりません」とは言いづらいものなのです。


どうすればいいのか。「わかった?」と問いかけ、「わかりました」と答えが返ってきたときのもう一押しが重要です。「では、復唱してみて」「では、今度は自分の言葉で説明してみて」と確かめてみるのです。そうすると、本当に理解しているかどうかは、たちどころに判明します。


私の経験です。顧客に対する提案をどんなふうに行なうか、部内で検討したときのことです。まだ経験の浅い営業担当者に、私が製品やサービスについて説明をしました。そのうえで、お客様へのプレゼンのストーリーをホワイトボードを使って説明しました。聞いていた営業担当者に、「こんなストーリーで進めればいいと思うけれど、できますか」と尋ねると、「はい。大丈夫だと思います」との返事。そこで、「じゃあ、私をお客様だと思って、二十分ほどで説明してもらえます?」と聞きました。


彼は、私が書いたホワイトボードの図を前に立ち、提案の予行演習をはじめました。しかし説明がはじまって三分もあうると、声が弱々しくなるのに気づきました。さらに五分、黙って聞いていましたが、根本的に製品知識が欠けているためにうまく説明できないのだとわかりました。


そこで彼の予行演習は打ち切り、提案のもととなる製品知識から再説明することになりました。結局、その提案検討会は、二時間以上かかってしまいましたが、これはこれでよかったのです。私は「わかった? じゃあ、これで提案してくださいね」と言って済ませていたら、お客様の前できちんと説明できず、お客様の時間を無駄にしてしまうだけでなく、自社のイメージにも傷がつき、本人も自信をなくしていたことでしょう。


これと似たようなやり方に、質問に答えさせるという方法があります。私はこんなふうにしています。


たとえば他部署から、私の部門で扱う製品やサービスについての相談や照会が寄せられます。問い合わせは私あてにきたとしても、その説明の席には、後輩にも同席してもらうようにしています。他部署からの相談内容は、「お客様からこういう問い合わせがあったけれど、どういう提案をすればいいだろうか」「今度はじめた新サービスは、具体的にはどういうものなのか。私の担当する顧客におすすめできますか」といったものです。


こうした質問にどう答えるかで、後輩の理解度は鮮明になります。そこ私から即答することはせず、まず同席している後輩に、「○○さんはどう思う?」と意見を求めます。後輩が「いまの話を聞くかぎり私は、他社の導入例なども示しながらA製品をおすすめしたほうがよいと思います」などと、自分の考えを述べます。


その内容や話し方などを聞けば、「ああ、この人はここまで深く理解しているな」とか「知らない間にずいぶんよく勉強しているもんだな」とわかります。もちろん理解の仕方に問題があると感じたら、後輩の説明が終わってから、「こういう可能性は考えられる?」と誘い水になる問いかけをしてみることもあります。


以前は、私がなんでも先に説明していました。その後、後輩に「○○さんの意見は?」と尋ねても、返ってくるのは「私も同じです。補足することはありません」という答えでした。これでは、本当に理解しているのかわからないので、自分が言いたいのをぐっとがまんして、後輩から先に見解を述べてもらうように変えてみました。これにより、後輩たちの理解度をずいぶんと正確に把握できるようになりました。


みさなんもいろいろな機会に、部下や後輩に話させてはいかがでしょうか。どのような内容でも、だれかに説明したり伝えたりしようとすれば、自分の頭の中を整理することが必要になり、理解をより深めることができるのです。