第1135冊目 武器としての交渉思考 (星海社新書) [新書]瀧本 哲史 (著)
- 作者: 瀧本哲史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/06/26
- メディア: 新書
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NPOだろうと「お金を集める能力」は必要
自由に生きたり、社会を動かしたり、他人を支援するためにはお金が必要になる。
だから、やりたいことがある人は、お金を集める能力を高めることが重要になる。
そのお金を集める能力とも密接に関連するのが、交渉の力です。
お金は金額が大きくなればなるほど、それによって実現できることも大きくなります。たとえば、アフリカの水不足に悩んでいる地域のために、先進国の人が1万円ずつ、100人寄付したとしても、そればバラバラに使われるとしたら、水汲みの人件費ぐらいで消えてしまうでしょう。
しかし、そのお金をもろもろの交渉によって一カ所に集めて、たとえば100万円にすることができたら、それで井戸を掘ることができます。
さらに多く、1000万円のお金を集められたら、川からモーターとパイプで水を引いて、新しい農地を開発できるかもしれません。
お金を集まれば集めるほど、社会に新しい大きな価値をもたらすことができる可能性が高まります。だからこそ、人間社会ではお金を集めることが大切になるのです。
お金を集める能力は、ビジネスマンだけでなく、大学の研究者にも必須の時代となりつつあります。
国からもらえる大学の補助金は年々減らされ続けています。アメリカの大学でも、優秀と評価される研究者は、企業との共同研究をたくさん行うことで研究費をバックアップしてもらったり、補助金を集めるノウハウを持っている人です。
あるいは、自分の研究している分野の成果を商品化し、そのライセンス使用料を大学に還元できるような人になります。
「あまり興味を持つ人はおりませし、研究成果をどう活かすのかもわからないけれど、この研究には意味があるんです」といくら主張しても、その研究にお金を出そうという人は現れません。
大学の先生も、自己満足で研究していればいい、という時代ではなくなっているのです。
こういう話は工学や医学など、理系の研究の話だと思われる人もいるでしょうが、文系でも状況は同じです。
文系部で行っているような研究にはお金が集まらない、と思われがちですが、仕事ができる大学の先生は、文学部が扱うテーマをもっと社会が求めるかたちで、お客さんのニーズに合わせて提供するようになってきています。
たとえば、あるアラブ文化の研究者は博物館に寄付を集めるのが重要な仕事です。アラブの国の多くはビジネスでも政府の力が強く、役人や政府機関に勤める現地の人にパイプがあるかどうかが重要になってきます。
そこで彼は、アラブに関心がある企業や財界人とのコネクションを作り、「この研究に寄付してくれたら、○○国の大使に会うことができますよ」といった交渉によって寄付を持ちかけ、彼らから大口の寄付金を圧得手、研究活動に役立てているのです。
単に自分がアラブ文化が好きだからといった理由で研究しているのではなくて、その研究が社会のどんなニーズの役に立つのか見据えて活動をしているわけです。
歴史や文学といった、一見すぐにはお金と結びつかない分野の研究であっても、その継続には必ずお金がかかります。ですから、そこで働く人にとっても「お金を集める能力」というのは必須なのです。
それは、利益を組織としては追求しない非営利団体でも同じです。
世界で最も評価されているNPOのひとつに、ルーム・トゥ・リードという組織があります。同団体は、マイクロソフトのアジア地区のマーケティング・ディレクターをつとめていたジョン・ウッドという人物が、世界の貧困国のどもに教育支援を行う目的で設立しました。
彼は、世界中の企業や国から巨額の献金を集め、そのお金をもとに、つぎつぎと発展途上国に教育支援を行っています。
そのジョン・ウッドが何よりすごいのは、彼の寄付金を集める能力なのです。
ウッドはその寄付金をもとに、2000年のルーム・トゥ・リードの設立から2011年12月までに、世界で1450校の学校を作り、1万2000以上の図書館・図書室を設置しました。
日本のNPOの多くは「自分たちは良いことをしているのだから、お金を寄付してもらうのは当然だ」、あるいは「非営利組織だからお金がないのは仕方がない」という意識があるように思えます。
もしも彼らが、ジョン・ウッドのような考え方を持てれば、もっと大きな活動ができるはずです。