第1213冊目 PRESIDENT (プレジデント) 2012年 10/1号 [雑誌]


PRESIDENT (プレジデント) 2012年 10/1号 [雑誌]

PRESIDENT (プレジデント) 2012年 10/1号 [雑誌]



「足の向き」との不一致は興味なしのサイン


入国管理局の特別審理官が要注意人物としてマークするのは、必ずしも風体の怪しい人物ばかりではない。「体の向き」が不自然な人物を注視するのは、入国審査のイロハである。


ご承知のように、入国カウンターではパスポートを確認され入国の目的などを尋ねられるが、普通の人は、順番待ちの列からカウンターの前にやってくると、カウンターに体の正面を向ける。ところが疚しいところのある人物は、顔と上体だけをカンターに向け、下半身は出口のほうを向けている場合が多いのである。


これは、「一刻も早くこの場を立ち去りたい」という心理の表れであり、こうした不自然な体の向きを取る人物は、たちまち空港内を巡回警備している特別警備員に取り囲まれることになる。



体の向きに敏感なのは、特別入国審理官ばかりではない。いわゆるテキ屋と呼ばれる人々も、常に客の体の向きを注視している。


なぜなら、露天で商店をしていると冷やかし客が多いからだ。冷やかし客にいちいち営業トークをしていては、商売あがったり。テキ屋が相手にするのは、体の向きと足の向きが一致している客だけなのである。


体の向きと足の向きが一致している客は、買い気の客。一方、顔と上体は店のほうを向いていても、足が進行方向を向いたままの客は冷やかし客であることを彼らは経験的に知っている。この手の客は、「このショルダーバッグいいわねぇ」などと口では言っても、まず購入にいたることはないから、テキ屋は相手にしないのである。


この事情は、ビジネスの商談の場面でもまったく同じである。たとえ相手の上体がこちらを向いていても、足が部屋の出口のほうを向いているような場合は、乗り気でないと判断してまず間違いない。同様に、上体が前傾しているか後傾しているかも、ビジネス上の重要なメッセージを含んでいる。


人間は何かに強く興味を持つと、フォワード・ポスチャー(=前傾姿勢)を取る。いわゆる「身を乗り出している」状態だ。もしも、商談の相手がこうした姿勢を取ったら、それは「興味津々」のサインだと受け取っていい。


反対に、人間は興味を失った瞬間にバックワード・ポスチャー(=後傾姿勢)を取る。相手がこの姿勢を取ったら、「興味なし」のサイン。ただし、後傾姿勢には「余裕」の意味もあるから、相手は「今日はこのぐらいにして、次回にもう少し詰めよう」などと思っているだけなのかもしれない。この場合は、交渉を打ち切ってしまうのは早計ということになるだろう。


後傾姿勢というと、背もたれにどっぷりともたれ掛かるような姿勢を思い浮かべるかもしれない。しかし、実際の後傾姿勢は、ほんの一瞬のほんの小さな肩の動きや、ほんの小さな肩の反りである。前傾姿勢もしかりだ。要するに、いずれも「微動作」なのであり、キャッチするのはなかなか難しい。


もしもあなたが意中の人に結婚を申し込んだとき、彼女の細い肩が一瞬かすかに後ろに反ったら、彼女の答えは「ノー」かもしれない。ただし、そのサインを正確にキャッチできる男性は極めて少ない。なぜなら、人間はマイナスのサインほど知覚したがらない生き物だからである。