第1199冊目  知らないと損する 池上彰のお金の学校 (朝日新書) [新書]池上 彰 (著)


知らないと損する 池上彰のお金の学校 (朝日新書)

知らないと損する 池上彰のお金の学校 (朝日新書)


給料について


この一〇年で、日本企業が社員に支払う給料の形はだいぶ変わってきています。以前の日本企業では、社員の仕事ぶりを厳密に査定することもなく、仕事をしていてもしていなくても、給料は年功序列で毎年上がっていきました。これを「定期昇給」と言います。


定期昇給は四月に実施されるので、労働組合は、それに合わせて基本給そのもののベースアップを目指して企業と交渉しました。これが春に行われるので、「春闘」(春の闘い)と呼ばれ、また春闘は「ベア(ベースアップの略)闘争」とも呼ばれました。ボーナスも景気にかかわらず何ヶ月分が支払われるという形でした。しかし、今はそういう企業はほとんどありません。


確認のために、従来の日本型給与制度について確認しておきましょう。


多くの日本企業は、私企業でも公務員のように、新入社員から定年までの給与体系がすべて決まっていました。たとえば、新入社員の時の給料を一号俸、二年目の社員の給料を二号俸、三年目の……と階段状に決めておきます。


新卒として企業に入社すると、「新入社員は月給○○円」と決められている。二年目になると、「定期昇給(略して「定昇」と言うこともあります」して、二号俸の給料をもらえるようになる。次の年も、また定期昇給して三号俸の給料がもらえるようになる。このようい年功序列型で給料が上がっていくわけです。


ただ、物価が上がっていくインフレ下でこの方式を採っていると、だんだん生活が厳しくなってくる。そこで社員たちは「給料表自体を底上げしてほしい」と会社に要求するわけですね。新入社員の時の給料そのものを底上げする。あるいは二年目以降の給料を底上げする。これが「ベースアップ」というものです。もちろん会社としては人件費の負担が増えますから、このベースアップについては慎重になります。そこを交渉していたわけですね。


昔の春闘では、主にこれが定期昇給は○○円、ベースアップは○○円と毎年両方上がるわけです。いい時代でした。しかし最近は、ベースアップはもちろんないし、定期昇給すらしない企業も増えています。新入社員の時から何年勤めていても給料が変わらないわけですね。ただしデフレ下においては、同じ給料をもらっていれば、物価のほうが下がっていきますからその分、実質的な手取りは増えているとも言えます。


このように年功序列の横並びで給料が決まっていたのが従来型の給与体系でした。しかし、不況が続いたことで、「働かなくても、ただ歳を取っていくだけで、旧呂うが上がるのはおかしい」「自分ほうがあいつよりも何倍も働いているのに、年齢が同じだから給料が同じというのおかしい」といった声が大きくなってきました。


そこで、業績給という考え方が出てきます。これは、まず「あなたはこれだけの働きを期待するので、給料は○○円支払います」と最初に決めておきます。そして、もしその人の働きが期待以上のものであれば、次の年の給料は上がる。反対に、期待以下の働きしかできなかったら、次の年の給料は下がる。悪くするとクビになる。こうした形になったきたわけです。


他にも年俸制という契約方式が非常に増えました。私もNHKに勤めていた時代は年俸制でした。ヒラ社員の時は違いましたが、管理職になってからしばらくすると年俸制になりました。ボーナスも完全な業績給です。仕事の業績によって、大きく差がつくようになりました。同期入社でも年収で二〇〇万円近い差がつくようになっていました。査定もボーナスごとにあるわけです。ボーナスの給与表に「あなたの普段の働きぶりを鑑み、本来の金額にいくらプラスしました」と書かれています。これが書かれていない人は、他の人よりボーナスが少ないことを意味します。


こういう形を採る企業はとても増えてきています。