第1150冊目  “司法試験流” 勉強のセオリー (NHK出版新書 375) [新書]伊藤 真 (著)


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“司法試験流"勉強のセオリー (NHK出版新書)


事前のシュミレーションで自分を客観視する


私は、講演会を年間一〇〇回ほど行っています。それに加えて、伊藤塾でほぼ毎日講義があるので、よく「聞き手が大勢いる場でのプレゼンがうまくなるコツはありますか?」と訊かれますが、結局のところ、やはりそれは事前に準備をきちんとしておくことに尽きます。


プレゼン前に準備しておくことの一つは、順序、メリハリ、時間配分です。どんなに話し慣れているテーマであろうが、これらをあらかじめ頭の中で思い描いておかないと、たいがいは失敗します。そこで、私がおすすめしたいのは、思い描いたイメージを実際に友人や同僚、上司など第三者に聞いてもらってシュミレーションしてみることです。


特に若いビジネスパーソンの場合、人前で話す機会はそう多くはないと思いますので、事前にシュミレーションして客観的に検査するというのは、極めて有効な方法でしょう。なおかつ、現代はインターネットの普及などが要因となり、人と一対一で向き合って話すこと自体に苦手意識を持つ人も増えているといいます。そうなると、とてもじゃないですが複数の人の前で話すことなど、考えられないわけです。


そのような苦手意識を克服する方法の一つは、やはり場に馴れることです。プレゼンの経験が少なくても、実際に声に出して人前でシュミレーションすることによって、それが場馴れするための訓練にもなります。そこで聞いているもらう相手がいないような場言いには、セルフレクチャーをしてみるといいでhそう。私も若い頃から随分やってきましたが、要は、ボイスレコーダーに録音したり、ビデオカメラで録画するなどして、自分で自分に向かって講義をするのです。ここで何より大切なのは、自分を客観視する、ということです。


実際に声に出して客観的に検査してみると、現実は自分の頭の中で描いていたイメージと全く異なることに気づかされるはずです。例えば、先にも触れたように、プレゼンでは時間配分は非常に大切なのですが、とりわけ、三〇分、一時間と長時間かけて話さなくてはいけない場合、「時間が余ってしまったらどうしよう」という恐怖心が大きくなってしまいがちです。ところが、実際にシュミレーションしてみると、時間が足りなくなってしまうパターンが多いのです。これは、時間が余ったら嫌だなと思って、つい最初の部分に時間をかけてしまう、あるいは、丁寧になり過ぎてしまうことが原因で、結果、後ろが駆け足しになってしまうからです。


これを防ぐためにも、まずは通常のスピードで話してみて制限時間内に収まるか、収まらないかを確認し、それによって内容もブラッシュアップするなどの対策を打つことが必要です。さらには、プレゼン当日の時間配分の目安をあらかじめ認識しておくといでしょう。例えば、一時間ならば話す内容を四つぐらいに区分し、この辺で一五分、この辺で三〇分、この辺で四五分……と、プレゼン内容と全体の時間を照らし合わせて、大まかに配分を決めておく。仮にこれが五分ぐらいのプレゼンであるならば、三つぐらいに区分しておくと安心です。


それから、声の大きさ、張り具合、トーンといったテクニカルな部分に関しても、事前に人に聞いてもらったり、自分で録音した声を聞いたり、録画したビデオを見たりすることで改善点を見出すことができます。特に、癖のようなものは、普段だとなかなか気づきにくいものです。例えば、無意識のうちに、「えーと」「あのー」といった言葉を連発してしまっている人は意外と多いのではないかと思います。さらには、表情や視点、手の動き、しぐさといった癖に関しても、重要なプレゼンであればあるほど、しっかりと検証して準備を進めておきたいものです。