第1137冊目  その話し方では軽すぎます!  エグゼクティブが鍛えている『人前で話す技法』 [単行本]矢野香 (著)


その話し方では軽すぎます!  エグゼクティブが鍛えている『人前で話す技法』

その話し方では軽すぎます!  エグゼクティブが鍛えている『人前で話す技法』


「手本になる人物」は徹底して真似る


上達のスピード、精度が上がる


印象は、年齢、学歴などの目には見えない属性からも形成されます。その中でも職業は大きな要因の一つです。公務員、教師という職業を聞くと、真面目で誠実な人柄を想像するのが、その例です。


職業上の肩書と、実力に大きな差がある人は要注意です。マイナスの面をより大きく印象づけてしまう恐れがあるからです。


NHKで仕事をはじめたばかりの頃の私の実力は、NHKキャスターという名刺の肩書には全く見合っていませんでした。女子大生が職場体験でアナウンサー業に挑戦しているように見えたかもしれません。「頼りない」という印象をお持ちになった人もいたはずです。


そこに「NHKキャスター」という肩書が加わると、「NHKでニュースを読む人の割には、頼りない人」という印象になるのです。


上司の困り果てていたのでしょう。ある日、「お手本となる人を探してみて」という指導を受けました。


要はモノマネです。モノマネをする人の条件は一つ、私と肩書が同じ人。そこで選んだのが、当時、『NHKニュース7』を担当していた森田美由紀アナウンサーでした。


森田アナウンサーは、女性ではじめてNHKの午後7時からのニュースを担当し、局内でも「森田さんがニュースを読み間違えたのを聞いたことがない」と評判の「ニュースの森田」と言われた人です。


その日から私のモノマネ練習がはじまりました。


まずは形から真似ようと、肩まであった髪を森田アナと同じようなショートカットに切りました。本番で着る衣装も、それまでのパステルカラーの可愛らしいスーツはやめて、森田アナと似たような色と形、モノトーンカラーのテーラードスーツを購入しました。


それまでやっていた滑舌や早口言葉のアナウンス練習はやめました。代わりに、「こんばんは、森田美由紀です」と何回もモノマネで言い続け、同じ調子で「こんばんは、矢野香です」と言う練習をしました。


さらに、森田アナが番組で読んだニュース原稿を取り寄せ、実際放送したニュースに合わせて自分も一緒に読んでみました。声の高さ、話すスピード、どこで息継ぎをするか、どの言葉を強調するか。本物の森田アナと自分の声がぴったり重なるようになるまで、この練習を繰り返しました。


アナウンスのテクニックを一つひとつ練習し習得するよりも、モノマネ練習の方が私には合っていたようです。それから十年も後のことになりますが、その成果を確認することができました。とある若いニュースディレクターから、「矢野さんって、読み方が森田さんみたいですよね」と言われたのです。思わず一人でニヤリとしてしまいました。


もしも肩書と実力に差があるとお悩みであれば、同じ肩書で、それにふさわしい人物のモノマネをしてみることをお勧めいたします。