第1068冊目  ベスト・パートナーになるために―男と女が知っておくべき「分かち愛」のルール 男は火星から、女は金星からやってきた (知的生きかた文庫) [ペーパーバック]ジョン グレイ (著), John Gray (原著), 大島 渚 (翻訳)


三高だけでは満足できない女性の心理


ある時、私のもとにカウンセリングにやってきたパムがこんな悩みを打ち明けた。


「私は、チャックのために自分のすべてを捧げ尽くしてきたつもりなのに、彼は私を無視するんです。彼は仕事のことで頭がいっぱいで、私のことなんかまったく気にかけてくれないんです」


それに対してチャックはこう反論した。


「でも、僕が一生懸命に仕事をして金を稼ぐから家のローンが払えるんだし、時には豪華なバカンスを楽しむもできるんです。彼女は幸せなはずです」


彼女も応酬する。


「もし、あなたに愛されていないのなら、大きな家も豪勢なバカンス旅行もちっともありがたいとは思えないわ。私は、あなたにいつも気にかけていてもらいたいの。そっちのほうがよほど嬉しいわ」


彼が再び反論する。


「君に言わせれば、自分だけが何でもやって僕は何もやっていないみたいに聞こえるね」


「そうよ。そのとおりよ。私は絶えずあなたのためにたくさんのことをしてきたわ・料理もするし、洗濯もする。家の中の掃除も……みんな私ひとりでやってきたわ。あなたは、たった一つのことしかしていないじゃないの。仕事だけよ。たしかに、そのおかげで食べていけるわ。だからといって、ほかのことは全部、私にやれといういうの?」


チャックは、成功した医者である。他のプロフェッショナルな仕事人間と同じように、彼もまた仕事に膨大な時間を費やすが、それだけに金も稼ぐ。にもかかわらず、妻のパムが不満に満ちている理由が彼にはまったく理解できなかった。彼は、愛する妻と子供たちのために高収入を得、豪勢な生活を保ってきたのだ。それなのに、彼が帰宅すると妻は少しも幸せそうではない。


彼の気持ちの中には、自分が仕事でより高額の収入を得れば、その分だけ家庭内で妻を喜ばせるためにあれこれ気をつかい、用事をしたりする必要はなくなってくる、という考えがある。彼は、月末毎の支払小切手だけで、少なくとも三十点くらいは稼げると信じている。さらに、新しく開業することになっているクリニックは収入を倍増させてくれることになるから、毎月、それだけで六十点は与えられるはずだ。


チャックには、彼の支払い小切手に書き入れる金額がどれほど多額であっても、それはパムから見れば一点にしかすぎないということなど思いもよらないのである。


彼には、パムの視点から見れば「彼が稼げば稼ぐほど、自分が得るものは少なくなっていく」と映るようになるのがまったく理解できない。新しく開業するクリニックは、より多大な時間とエネルギーの消費を必要とする。それをカバーするために、彼女は家庭内の用事をより多くこなしていかなければならなくなってしまうのだ。


彼女は、数多くの仕事をこなし、二人の家庭生活や夫婦関係をうまくやっていくために自分の時間とエネルギーを捧げていくうちに、自分には夫の一点に対して六十点もの点数を与えていると感じるようになる。それが彼女を不幸な思いに陥れ、いらだたせるのである。


パムは、自分がより多くの時間とエネルギーを二人の家庭生活につぎ込むほど、自分がやりたいことができないようになるから、損をしていると感じていくようになる。


一方、チャックは「僕がこんなに一生懸命に働いて、より多くの貢献(六十点分)を家庭にしているのだから、妻からもっといろいろなことをしてもらわなければ割が合わない」と考えているのだ。