第1003冊目  すごい説得力: 論理的に考え、わかりやすく伝える話し方 (知的生きかた文庫) [文庫]太田 龍樹 (著)


目は、これほどに「ものをいう」


説得できるかどうかを左右するのは、口から出る言葉だけに限りません。「言葉にならない部分」も大事です。

落語家の古今亭 菊之丞さんが、名人・古今亭志ん朝に指導をうけたときについて、こう話しています。

私がご指導を受けたのは、古今亭師匠も得意にされていた『愛宕山』。

「菊之丞さん、うーん……絵が浮かばない」って開口一番に言われました(笑)。

「谷の深さがわからない。山がどうなってて、崖がどうなってるか、わからないんだ」って。

「お客にわかるようにするには視線の遠さだとか声の張り方を変える。それで距離感だとか、山の稜線の具合だとかを描き出すしかないんだ」って。

なるほど、だから志ん朝師匠の落語はわかりやすいんだ、情景が浮かぶんだって思いました。

聞き手を納得させるには、「淀みなく語る」だけでは足らないわけです。

そこで、まずは「目」の使い方について説明していきましょう。

人は、生まれたときから今に至るまで、さまざまな環境の中で成長し、その過程でさまざな人と触れ合い、そしれいろいろな体験をします。特に、目を見れば、その人がどんな育ち方をしてのか、そしてどんな体験を潜り抜けてきたのかがわかるものです。「目は口ほどにものをいう」とはよくいったものです。

あなたが誰かを説得しようとするとき、その相手は必ずしも好意的な目や視線であなたに応えてくれるとは限りません。あからさまに敵意に満ちた目かもしれません。反抗的な目かもしれません。無関心な目、懐疑的な目かもしれません。

それを、気にしすぎる必要はありません。あなたが悪いわけではなく、人の反応というものは、相手の生まれ育ってきた環境やクセ、体調などのコンディションにもよるからです。

しかし、だからこそ、あなたは常に好意的な視線で対応することです。あなたにその決意があれば、いついかなるときも一貫した変わらない信念を持つことができます。

敵意のある視線に対して、「目には目を、歯には歯を」と同じように敵意を含んだ目で応じてしまっては、相手の心をつかむことはできません。当然、相手を説得することができないのです。相手にどんな視線を向けられようと、「説得者」であるあなたは、素直で、率直で、自信のある力強い態度で説得に臨む必要があります。