第996冊目  知らないと恥をかく世界の大問題2 角川SSC新書 (角川SSC新書) [新書]池上 彰 (著)

鳩山さんの失敗は何か


2009年8月、約50年ぶりに歴史的な政権交代が実現しました。しかし、「政権が代わったからといって、あまり変わらないんだ」と実感している人は多いのではないでしょうか。いや、むしろかえって悪くなったと思っている人もいるでしょう。

鳩山政権(鳩山由紀夫首相)は262日、歴代5番目の短命内閣に終わりました。何がいけなかったのか。少なくとも三つあったと思います。

ひとつは「沖縄・普天間基地移設をめぐる発言」です。民主党にマニュフェストには、「沖縄の基地を見直す」と書いてあるだけで「県外移設」とは書いてありませんでした。でも社民党と連立を組みにあたり「最低でも県外」と言ってしまった。実現していないのですから、責任を問われることになります。

二つ目は、「政治とカネ」の問題。民主党は野党時代に、自民党の政治とカネの問題を厳しく追及していました。それがブーメランのようにわが身に返ってきたのです。鳩山さんも母親のブリヂストン株を原資に「?子ども手当?をもらっていたのか」なんて、自民党に揶揄されてしまいました。

三つ目は二転三転、発言がしょっちゅうブレしたこと。連日のようにクルクル変わる発言はもう「ブレる」の域を通り越していました。

「政治主導」も空回りした感じがあります。民主党は以前「政治が判断せず、官僚任せだから日本がダメになったんだ」と自民党政治を批判した以上、「自分たちはそうじゃないよ」というところを見せたかったのでしょう。方向性は間違っていなかったと思いますが、官僚に任せればいいところまで、すべて自分たちが抱え込んでしまいました。本来、政治家は「大方針」を打ち出して、後の細かいところは官僚にやってもらえばいいのです。よいパートナーシップを築かなければならない。しかし、自分たちが丸抱えしてアップアップになってしまいました。

鳩山内閣の後を継いだのが、管直人内閣。

管首相に交代した途端、下がっていた民主党の支持率は一気にアップしました。その管首相がスローガンとして掲げたのが「最小不幸社会」でした。


彼は高校時代、イギリスの作家、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』という本を読んで影響を受け、「最小不幸世界」を自らの政治哲学としたようです。

管首相の目指した「最小不幸社会」とは、「人間の幸福」というのは人それぞれが個々に追求するもので、政治の問題ではない。たとえば「プール付きの家に住みたい」というのは政治の問題ではない。それは自分の努力で何とかしてください、と。でも、「経済的な問題で学校に通えない」とか、「病気になっても医療費が払えず病院に行けない」とか、「年金がなくて、年をとって暮らせない」とかいった問題、つまり「人間に共通する不幸を、政治の力で少しずつ減らしていこう」というのが、最小不幸社会です。

鳩山さんは「友愛」というあまりにも漠然とした言葉で「幸福社会」を語りましたが、それに比べると現実的だっと思います。

「政治の役割をできるだけ小さくしよう」という点では小泉・竹中路線に共通したところがあるのです。でも「社会福祉は大事だから、社会保障はやる」という、従来の「小さな政府」と「大きな政府」という分け方とは異なる政治を目指したといえます。

しかし、支持率はご存じのとおりどんどん下がっていきました。