第995冊目  (文庫)ビジネスで差がつくマナーの心得 (サンマーク文庫) [文庫]三枝理枝子 (著)

(文庫)ビジネスで差がつくマナーの心得 (サンマーク文庫)

(文庫)ビジネスで差がつくマナーの心得 (サンマーク文庫)

なぜ、おでこを出すと信頼されるのか?


あなたが仕事を任せたくなる人は、あるいは「この人なら?」と紹介したくなる人はどんな人でしょうか?

「仕事のスキル・テクニックがあって誠実な人」といった声が返ってきそうですが、私だったら、まずは身だしなみが整っていることを優先します。

なぜなら、身だしなみが整っている人は仕事ぶりも素晴らしいと思うからです。

清潔感がなく、外見がだらしなく見える人は、内面もだらしなく、生き方も仕事ぶりもだらしない人と言えるのではないでしょうか。


さて、あなたは自分の身だしなみに自信がありますか?

私は自信を持って「はい」と答えられます。自信過剰と思われそうですが、職業柄、常に人から見られていることを意識しているので、身だしなみには気をつけているからです。

もちろんプライベートでは気を抜いていて、「知っている人に会ったらどうしよう」とひやひやしながらスーパーや本屋さんに立ち寄っているときもあれば、ちょっと奇抜なおしゃれを楽しむこともあります。

ですが、オフィシャルな場では老若男女すべての人に感じがいいと思ってもらえるように、身だしなみには気をつかっています。

日ごろ、身だしなみの重要性を説いている本人が実践できていなければ、言葉にまったく説得力がありません。何事もけじめをつけることが大切ですから。

日本を代表する大手金融機関からも、新入社員教育や管理職の研修。講演で身だしなみについて厳しく指導してほしいと依頼されることがあります。

もちろんこういった依頼は金融機関に限ったことではありません。こちらとしては時間が限られていますから、もっと心の部分の話がしたいと思うのですが、最近の傾向としてはどの企業からも身だしなみの話を求められます。

今、それほど身だしなみが乱れているのです。

研修をしていて気になるのは髪型です。とくに目につくのが前髪、つまり、前髪が目や眉毛にかかっている人が多いのです。

前髪や眉毛にかかっていると、おでこが髪で覆われ、相手に暗い印象を与えてしまいます。お辞儀をして下を向くと顔にかかりますから、その都度、手でかき上げざるをえず、仕事の効率も悪くなります。また、髪を触るので不衛生でもあります。

手相ではなく、顔相学というものをご存じでしょうか。

それによると、おでこが出ていると幸せを呼び込めるそうです。自分が幸せになるためにも、おでこをすっきり出して表情を明るくし、清
潔感を醸し出したほうがよいということです。

乗務前、CAは必ずペアになって頭のてっぺんから足元まで、身だしなみチェックをし合います。このとき、前髪が額にかかっていたらスプレーやムースで前髪を固めてからすっきりさせます。また、眉は両方出ているのが基準ですし、まとめ髪はほつれがないようにしっかり整えます。

これは、プロとして身だしなみを整えることが、お客様との「約束を守る」ことにつながると考えているからです。

ANAが中国へ定期便として初のフライトをしたのが今から25年前。このとき、私は大連経由北京行きの初便でファーストクラスの乗務を任されました。

歴代の社長もお乗りになっていましたし、ANA悲願の中国路線でしたので飛行機から中国大陸が見えたときは、胸が熱くなったのを覚えています。しかも帰国して数日後、クルーを代表して新聞社の取材まで受けました。

初便に乗務できたのも、取材をしていただくことになったのも、上司からの推薦によるものです。

優秀で目立つ人材とほかにもたくさんいたので、疑問に思って「どうして私を選んでくださったのですか」と勇気を出して聞いてみました。すると、「前髪です」と思わぬ答えが返ってきました。

「……前髪ですか?」と拍子抜けして聞き返すと、「そう。1番目につく前髪がすっきりまとまっていて額が出ていることが、私の人を選ぶ基準。清潔感のある人は必ず誰からも好感を持ってもらえるの。相手を大切に思い、自分を整えられる人は仕事ぶりも任せていて安心ですから」と言われました。

おでこをすっきり出すことで、思わぬチャンスが巡ってきたのです。

これは男性にもいえます。もちろん、おでこが出るくらい髪を短く切りましょうと言っているのではありません。それくらいの清潔感を心がけていただきたいのです。

会社における身だしなみは、「1人くらいなら大丈夫だろう」という考えは許されません。身だしなみが整っていないその人を見たお客様は、「ここはこの程度の会社なのだ」と判断します。つまり、全員が整っていなくてはならないということです。

逆にいうと、社員の身だしなみが整っていると、それだけで信頼につながります。企業のブランド戦略の一部にもなり得るのです。

そもそも、外見が整うと自然と内面もビシッと決まってきます。形を整えることで心も整ってくるという体験は、あなたにも心当たりがあるのではないでしょうか。

なお、ビジネスマナーにおける身だしなみの要素は「清潔」「上品」「控えめ」「機能性」です。

ぜひ、自分の姿を姿見に映して確認してみてください。