第984冊目  聞く力―心をひらく35のヒント (文春新書) [新書]阿川 佐和子 (著)

聞く力―心をひらく35のヒント ((文春新書))

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「オウム返し質問」活用法


相づちにもいろいろな種類があります。「へえ」や「ほおほお」や「ふーん」などの軽いものから、もう少し深く相手の言葉に納得した場合は、「なるほど」と言うこともあります。相手と気さくに話のできる間柄だったときは、「なるほど」ではなく、「そっかあ」なんて言うこともありますね。実際に話を聞いているときは、それほど使い分けが上手にできていないかもしれませんが、、それが誌面に載るときは、同じ相づちが何度も続くと、読者が読みにくくなるでしょうから、とりどりに振り分けて反応するように書き直すこともあります。

「えっ?」というのは、本当に聞こえなかったときの反応ですが、ときには「もう一度、話してほしい」というときに使うことがあります。

でも一度、俳優の西村雅彦さんにインタビューした際、それを指摘されました。

「僕、人に『えっ?』って言われると、傷つくんですよ


「?」

「昔ね、聞こえないと『えっ?』っていう友達がいて、なんでこの人は『えっ?』って聞けるんだろうと思って」

「スミマセン」

「いや、非難してるんじゃなくて。それでいつか僕も『えっ?』って聞き返せるようになってやろうって、決意したんですよ」

言われてみれば、たしかに「えっ?」という言葉にはちょっと棘があります。「えっ?」の裏には、「聞こえないよ、そんな小さな声じゃ」とか「まさか、そんなこと言うつもり?」とか、そんなニュワンスが見え隠れする。だとしたらやはり、「えっ?」には相手を軽く侮蔑する意味が込められているのではないか。言っている本人にそのつもりがなくても、言われた相手は、そう受け止めることがあるのかもしれない。

西村さんに指摘されて以来、私は「えっ?」という言葉を発するたびに、「しまった。言っちゃった」と後悔します。同等の関係ならまだしも、上司や目上の方を相手にして「えっ?」はいけませんよね。聞こえなかったときは少なくとも「はい?」と聞き返さなければと、心しております、つもり。

あと、「オウム返し」も有効です。

「十六歳のとき、初めて家でして、沖縄まで行っちゃったんです」

「沖縄まで!?」

なんて具合に。

「僕ね、実はものすごく怖がりなんですよ」

「怖がり?」

なんて具合。

この「オウム返し質問」は、概して驚いたときに使いますが、その言葉を再度、ピックアップして叫ぶことによって発した語り手自身の心を喚起させる効果があるのでしょうか、「オウム返し」の次につながる答えは、その言葉をさらにかみ砕いた話になることが多いですね。

「僕ね、実はものすごく怖がりなんですよ」

「怖がり?」と繰り返した私に対し、

「そうなんですよ。僕、小さい頃からお化け屋敷とか異常に怖がって、雷もいまだに大嫌いですし」

なんて具合。

一つの答えをさらにかみ砕いて話してもらいたいと思ったときに便利なのは、オウム返し以外にも、「具体的には?」や「たとえば?」などです。

昔、アメリカに一年間住んでいたとき、英語が流暢とは決して言えないにもかかわらず、英語でインタビューをしなければならないことになりました。どうしよう……。そう思っていたとき、ある人に教えられたのは、「相手の言っていることがわからなかったら、こう聞けばいいんだよ。『Please be more specific』ってね」。

つまり「具体的に」という意味ですが、こういう問いかけのしかたなら、私の英語力の欠如を知られることなく、しかも最初の答えよりわかりやすく答えてくれるはずだというのです。たしかに、「あなたの英語がわからないので、もう一度、話してください」とお願いするよりはるかにカッコいい。こりゃ、便利な言葉を教えてもらったと、アメリカ滞在中はあちこちで乱発したものです。