第975冊目 小泉進次郎の話す力 [単行本(ソフトカバー)]佐藤綾子 (著)
- 作者: 佐藤綾子
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2010/12/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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響きのよい音とリズムで聞き手を引き込む
二〇一〇年六月九日/ネットメディア用対談
「私はアナログ人間、皆さんはハイテク人間。アナログとハイテクのハイブリッドが必要だ」
二〇一〇年七月五日/愛媛軒新居浜市
「今までの自民党には闘争心が足りなかった、開き直りが足りなかった」
聞いている演説の音が心地よければ、内容は何かと注目したり、まず聞いている音の心地よさが相手の聞く耳を誘っていきます。
このなかの一つのテクニックが、「連辞(レペティション)のテクニックです。これは似たような音、あるいは似たような意味の単語を次々と並べていき、「そして」だとか「とかいっても実は」などというような余分な接続詞を文章のなかからすべて省いてしまいます。それによって聞き手はたたみかける強いリズムを感じていくわけです。
例えば先の「私はアナログ人間、皆さんはハイテク人間。アナログとハイテクのハイブリッドは必要だ」というのもこの連辞のテクニックです。○○人間、○○人間と二つの人間のスタイルを「点」でつなぐだけで並べ、最後にハイブリッドだというふうに人間の種類を並べています。
この連辞のテクニックは、彼が何か大きな主張をする時、必ず使われる手法でもあります。例えば新居浜市の演説でも、「自民党は民主党の批判がっかりで自主性がないじゃないか、自民党独自の政策がないじゃないかと言われている」という世評に対して反論を展開する際にもこの連辞の手法が使われます。
「民主党が大負けしても自民党が大負けしても、参議院選挙は政権を取るわけではない。つまり参議院選で政権交代にはならない」と彼は言うのです。そして、「それは一流の野党になるためだ」と思いがけないことを言います。さて「一流の野党」とは何かと聞き手は思うにちがいません。
そこでこう言うのです。「今までの自民党には闘争心が足りなかった、開き直りが足りなかった」。一つのセリフを言うたびに左手の人差し指を斜め上方へ向けて、「闘争心が足りなかった、開き直りが足りなかった」と似たような音の言葉を並べていきます。連辞のテクニックです。
この二つのフレーズは、「○○が足りなかった」「××が足りなかった」というふうに音がそろうわけですが、その二つの文章のあいだは「。」の句点がついて、はっきり切れるわけではないのです。
類似した、あるいはまったく同じ音を使って、Aが足りない、Bが足りない、Cも足りない、Dも足りないとたたみかけ、本当にいろいろたりないんだというふうに聞き手が理解し、そのリズムの小気味よさゆえに話に引き込まれていくテクニックです。
これは父・純一郎氏が大変上手だったテクニックであり、オバマ大統領をはじめ、アメリカの大統領たちが必ずと言っていいぐらい演説に使うテクニックです。
もしも読者のあなたがセールスマンだった場合、あるいは社内で何かの企画を通そうとする場合、意味に共通性のある類似した、調子のよい音の言葉を選んで次々と並べて、リズムをつくってたたみかける「連辞」のテクニックをぜひ使ってみてください。聞き手を自然にそのリズムに巻き込んで乗せていく効果があります。
ただし「○○です。つまり、それはすなわち、エー××です」というような一般的な言い換えはダメです。つなぎの音がなく、ズラズラと同音の言葉を連ねていく「連辞」のテクニックは、頭の良い人しか使えません。
最初の言葉を言っているあいだに次、または次の次の言葉を忘れてしまうと連辞が崩れて「エー、つまりその……」となってしまうからです。私がすぐに思い浮かべるなかでは、言葉を並べているにもかかわらず、連辞がくずれて「エー」「アノー」と、つなぎの音が一番入るのは亀井静香市です。
連辞は、頭が整理されている時にはじめて使えるテクニックで、これによって良い音の流れをつくることができます。ぜひあなたもプレゼンテーションやスピーチで試してみてください。
暗記力に自信がない人はやめましょう。