第976冊目  ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫 [文庫]G.キングスレイ ウォード (著), G.Kingsley Ward (著), 城山 三郎 (翻訳)

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫

息子はいくつかの哲学的な質問をする。「人生の『真』の幸福はどのようにして手に入れるのか?」「ひとかどの人物になるための条件は何か?」「一緒にいればいつもうれしく、楽しい人がいる一方で、五分間そばにいても、一週間に感じられる人がいるのはなぜだろう?」


君に尋ねることは、私自身も答えを見出すために、この世で与えられた時間をかなり費やしてきた質問である。この三つのいずれについても、人はさまざまな考えを持っている。最初に問いについては、ヴィクター・E・フランクルという、第二次世界大戦中、ナチの強制収容所で生き延びたオーストリア精神科医の書いた本が、これまで読んだもののなかでもとりわけ啓発的で、私自身の考えにも大きな影響を与えている。彼は幸福について、新しい理論を打ち立てた。フロイトは、人生の幸福は快楽に達成できると思っていた。アドラーは権力の追求によって得られると思っていた。フランクル博士の考えに比べると、私の見るかぎり、この二人は残念ながら、完全に見当違いをしている。この点についてはあとで詳しく述べよう。

ひとかどの人物になるための条件は何か? 第一に必要なことは、誰もが心を持っているという事実を悟ることだろう。自分で自分のなかに育てた、独特の、たったひとつしかない、ひとりひとりの心である。君がこの事実を悟り、君の心を支配するのは君自身であること、そして君の心が君に与える力の大きさを理解するとき、君は初めて、ほんとうに君自身の仕事をすることができる。こうなったとき初めて、君は常にほかの人たちを見習い、ほかの人たちと同じ行動をとり、ほかの人たちの助けを求めることをしなくなるだろう。君は基本的に、君自身を見つめるようになるだろう。君の心を育てるのは君だけなので、ほかの人たちとは違う君独特の細胞の組み合わせになる。したがって、他人の精神が君のこの面での発育に及ぼす影響は限られている。フランシク・ベイコンは書いた。「人の運命を形成する鋳型は、主としてその人自身の手中にある」。人の心の形成についても同じ事が言える。

自由は心の発達に基本的な役割を演じるが、この事実を認識している人は少ない。私たちが本能の指令を受け入れたり、拒否したりするたびに行使している自由を意識している人は少ないのである。人生の挑戦に対してどう対処するか。それを選びとる自由こそ、すべての人間の力の中核である。困難な仕事を与えられたとき、君はその仕事や自分の運の悪さに愚痴をこぼすこともできるし、「これは難しい、嫌な仕事だが、引き受けるつもりだし、引き受けるからには立派に成し遂げるつもりだ」と自分に言い聞かせることもできる。もし君が後者の姿勢をとれば、仕事がしやすくなるし、もっと大切なことに、最後に達成感を味わうことができる。人生が突きつける挑戦に対して、態度を選ぶ自由があることを知って、それを行使するならば、君が人生の幸福を勝ちとる率は大きく伸びるだろう。