第914冊目 人を10分ひきつける話す力 [単行本]斎藤 孝 (著)
- 作者: 斎藤孝
- 出版社/メーカー: 大和書房
- 発売日: 2005/08
- メディア: 単行本
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ライブ感と身体力が大事
人前で話をするときは、ある程度メモをつくっておくことも必要だろう。ただし、メモに頼りすぎると。話がつまらなくなる傾向がある。
結婚式の披露宴でスピーチを頼まれた人は、たいていメモをつくるし、自信のない人、几帳面な人は原稿までつくってくる。
ここまではいい。
しかし、メモや原稿を読み上げてはいけない。まず、読み上げるというだけで、会場の人は聞く気をなくす。
大学で教える場合でも、ノートを読み上げるような感じだと、聞く側が察知していまい、もう聞く構え自体をなくしてしまうということがある。
本の内容をノートにまとめても、そのノートを見ながら話すのでは、単なる本の再生、情報の再生にすぎない。ならば本を読めばいい。
この人の言葉は、今生まれるものではなくて、かつて生まれたもの、あるいはかつて人から聞いたことを今焼き直して言っているだけだと、聞き手に感じられてしまう。そのライブ感のなさが、聞き手の聞く気を奪ってしまう。
逆に、今ここで、自分たちを目の前にしているからこそわき出ている言葉だと思ったときには、聞き手は積極的に受け止める姿勢を持つ。
ただし、ライブ感を出そうとして、ぶっつけ本番で話をすると、準備不足から内容に意味が少なくってしまう。また、話の流れがめちゃくちゃになり、着地点が見えなくなることもある。
あらかじめ準備しすぎるとライブ感がなくなり、ライブ感を優先させると意味が少ないという、このジレンマをうまく乗り越えなければ、人をひきつけるような話はできない。
人前で一時間半話すとなると、ある程度はノートやレジュメが必要だが、三〜五分であれば、一枚のメモで十分だ。メモは文章にするのではなく、キーワードだけ書いておく。メモづくりについては第2章で詳しく説明する。
まず、短い話の意味の含有率を上げ、だんだん時間を延ばしていく。そういうトレーニングをしていけば、ライブ感のあるおもしろい話ができるようになる。
書くことと違って、話すという行為では、身体が占める役割は非常に大きい。
ライブ感を高めるには身体性も重要だ。話し手の身体の聞き手の方に向かって働きかけていないと感じられると、聞き手の聞く構えが解けてしまう。重要なポイントは声の張りだ。
聞き手は、声に張りがあるかないかで、その話し手が自分たちに向かってくる姿勢があるかどうか、あるいは伝えたいことそれ自体があるかどうかを感じ取ってしまう。
話し手のパワーは、声にはっきり表れる。聞き手にしても、パワーのない人の言うことは聞きたくないだろう。身振り手振りをうまくやっても、あまり意味はない。声の張りを出すには、「今日はこのことを伝えたい、絶対に伝えるんだ」という信念を持つことがその第一歩になる。