第913冊目  レバレッジ・マネジメント―少ない労力で大きな成果をあげる経営戦略』 [単行本]本田 直之 (著)

素直さを持っているか?

さまざまな経営者を見てきて、私が感動した事実がある。それは、優れた経営者は一様に素直であるということだ。

素直さを持たない経営者は、周囲に何か提案されても、いっさい聞く耳を持たない。

「こうしたらよいのではないでしょうか?」というアイディアを、「いや、それはもう、全然駄目だ」「そんなことはわかっている」「そんなことをしても効果がない」とばかりに素直にならず、決めつけてしまう。

しかし、優秀な経営者は「聞く耳」を持っている。アドバイザーとなる人を選ぶ必要があるが、良い悪いは別として、自分の会社のために言ってくれる意見があるなら、耳を傾けてみようという基本姿勢がある。

素直さといっても、人に言われたことを「そうですか」とばかりに聞き入れ、言われるがままに実行することではない。意見はきちんと聞くが鵜呑みにせず、自分の思考に照らし合わせて取捨選択し、意志決定するということだ。

優秀な経営者はまた、「この人の意見は参考になる」と判断すれば、たとえ年下の意見でだとうと目下の者のアドバイスであろうと、実際に試してみる素直さも持ち合わせている。

たとえば、ある経営者は、「自分のやり方ではこのまま経営していても、これ以上の成長は難しいと思う」と言って、私のアドバイスに耳を傾け、最後には経営のほどんどを一任してくれた。ベンチャー企業の経営者にとって、これは普通ではありえないことだ。なぜなら、経営権を渡すとは、自分の経営スキル、ひいては自分自身を全否定するに等しい行為だと思う人がほとんどだからである。

しかし彼は、「自分にできないことを認め、得意な人のアドバイスに全面的に耳を傾け、実行してもらう」という策を取った。これもまた、素直さから生まれた実行力の好例だと思う。

「優れたビジネススキルを持っている」というプライドは誰にでもあるだろうが、よほどの天才でない限り、プライドと能力は必ずしもイコールではない。

いったん話を聞いてみる素直さ。良いと思えば試してみる素直さ。これを持っている経営者は、たとえ若くても確実に成長していくことができる。また、年齢を重ねていても、優れた経営者はみな、子供のような素直さをすり減らさずに持ち続けているのだ。