第892冊目  聞く力―心をひらく35のヒント (文春新書) [新書]阿川 佐和子 (著)

聞く力―心をひらく35のヒント ((文春新書))

聞く力―心をひらく35のヒント ((文春新書))

視線嫌いの人たち

でも、視線を避ける理由が必ずしも「敬意」ではないとお見受けする人も、ときどきいますよね。目を合わせるとやっかいだ。目を合わせると、会話を始めなければいけないのdが嫌だから無視しよう。エレベーターや電車の中やいろいろな場面で、「こりゃ、敬意の表れとはほど遠いだろう」と思われる視線嫌いがたくさんいるように思います。

対談をしていて、なかかな視線の合わない人もいます。まったくこちらを向いてくれないわけでなく、喋りながら、しばらくあらぬ方向に視線を向け続け、語尾の部分が近づくと、「……なんですよ」「……というわけでね」と、息継ぎをするついでに、ちらりとこちらを振り返る。そういう喋り方をする方は少なくありません。

ちっと恥ずかしがり屋なんだろうなあ。そう思うことにしていますが、あまりにもそっぽを向かれる時間が長くなると、だんだん寂しい気持になるものです。

もう一つ、急激に寂しくなるのは、こちらが話をしている最中に、視線をあちらこちらに動かす人と話をしているときです。ああ、私の話に飽きたんだな。あるいは、私の話以外に気になることができちゃったんだな。そろそろ帰りたいのかな。相手の視線の動きによって、こちらの気持はざわついてきます。

自分がそんな寂しい思いをした経験があるからこそ、私が相手の話を聞くときは、できるだけ視線をそらさないように気をつけます。じっと目を見つめ過ぎて、友情以上の気持が生まれても先方にご迷惑でしょうから、そういうときは、目だけでなく、顔全体を少し移動させるとか、ときどき下を向くとか、視線の休憩時間をほどよく挟んで、でも決して落ち着かない目つきだけはしないように心がけているつもりです。