第893冊目  「分かりやすい説明」の技術 最強のプレゼンテーション15のルール (ブルーバックス) [新書]藤沢 晃治 (著)

「慣れ」の恐ろしさ

運転士は同じセリフを一日に数十回、一年で年千回も言っているうちに、やがて、そのセリフに言い慣れすぎてしまったのでしょう。そのうちに「言葉を話す」という感覚からも遠くなり、さらに、乗客にある意図を伝えるという目的意識も、遠い彼方に置き忘れてしまったのでしょう。そしてただただ、条件反射のようにウニャウニャと不明瞭な音声を発するだけになってしまったのだろうと思います。

ところがこのウニャウニャは、私たちも十分犯す恐れのあるミスなのです。とくに常務上で同じ説明を繰り返さなければならない状況で起こりがちなミスです。

ホテルのフロントで、新しく来た宿泊客に対する説明は、恐らく同じ言葉の繰り返しでしょう。テーマパークの、乗り物の前で、控えている説明員の説明も毎回、同じでしょう。ファースト・フード店では、キャンペーン・メニューの説明も朝から晩まで同じでしょう。

毎回、お客様にはっきりと伝わっているでしょうか?

また、お客様からの電話に出るときの、最初の「ハイ、○○でございます」も毎回同じでしょう。とくに「○○」が会社名の短縮形だったりする場合を考えてください。当然、応答している社員自身には、その「○○」はなじみがあるので理解できています。しかし、その会社に初めて電話しているお客様にとっては、ゆっくり言ってもらわないと聞き取れない可能性があります。

かく言う私自身も、同じプレゼンテーションを繰り返していると、回数を重ねるほど、受講生の満足感が低くなるという失敗を体験しました。

お客様に「えっ?」と聞き返されたら、自分の話し方がウニャウニャになっている可能性を疑ってみるべきでしょう。