第882冊目 「権力」を握る人の法則 [ハードカバー]ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)

「権力」を握る人の法則

「権力」を握る人の法則

力を印象づけるふるまい

ピーター・ユベロスメジャーリーグMLB)の元コミッショナーで、一九八四年のロサンゼルス・オリンピックを成功させたことで有名である。ユベロスはその年の「タイム」誌のマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。そのユベロスの座右の銘は、こうだ――権威の二割は与えられるものだが、八割は自ら勝ち取るものである。まさに至言である。勝ち取る方法の一つは、オリバー・ノースのように、自信を持って、あるいは自信ありげにふるまうことである。たとえ自信がなくとも、決然とした態度を示さなければならない。インテルの共同創設者にして元CEOのアンディ・グローブは、その好例である。ハイテク業界の経営者は誰でもそうであるが、グローブも、テクノロジーの未来を自分が正確に予測できるとは思っていない。では、見通しが定かでないのにどうやって会社を経営するのか。シリコンバレーのある会議でそういう意地悪な質問が出たとき、グローブは次のように答えた。

「そうだね……一部は自己研鑽だが、残りははっきり言ってハッタリだな。だがハッタリは現実になる。なぜなら、自分を奮い立たせ、楽観的にする効果があるからだ・自信ありげにふるまっていれば、ほんとうに自信がついてくるものでね。そのうちハッタリも、それほどハッタリとは言えなくなってくる」

グローブは、大見得を切ることの重要性をよく理解していたと言えよう。ハリエット・ルービンによれば「グローブは、有能でも内気なマネジャーにはオオカミ塾と呼ばれる強烈な研修への参加を義務づけていた。その研修では、上司につかみかからんばかりの勢いで議論をする訓練や、大声で提案を突きつける練習をする。生来おとなしい人も、オオカミらしくふるまわなければいけない」という。

アンディ・グローブ流のハッタリの原則は三つある。第一に、始めは演技だったことも、しばらくすれば演技でなくなる。時が経つうちに演技が身についてきて、自信をもってふるまえるようになるし、自分の言っていることを自分を信じられるようになる。すでに述べたように、考えが行動に感化されることは多くの研修でも確かめられている。第二に、表現された感情は周囲に影響をおよぼす。自信や満足感といった感情は、伝染するのである。たとえば空港の通路を笑顔で歩いたら、すれちがう人々も笑顔で応える。だがにらみつけたら、向こうもにらみ返す。感情の伝染と市場の関係を調べた研究によれば、ほほえみかけられた人はしあわせな気持ちになり、奨められた商品にも好感を抱くという。この場合、感情は人から人へ直接伝染するのではなく、相手の笑顔に心地よさを感じた人は、買った品物に満足するという仕組みである。第三に、感情も行動も自己増殖的な性質を持つ。あなたが笑顔で接し、相手からも笑顔が返ってきたら、あなたはもっとうれしい気分になるだろう。人間どうしの反応にはこのように再帰的な性質があるため、一度作られたムードは安定して続きやすい。たとえばグローブは、立場上自信ありげにふるまう必要があった。だがその力強い自信が周囲に反応するため、グローブ本人が次第に自信を持って前進できるようになった。

このように、立ち居ふるまいはリーダーシップにとっても権力や影響力を手にするうえでも、重要なポイントとなる。