第797冊目 相手に「伝わる」話し方 ぼくはこんなことを考えながら話してきた 池上彰/著

相手に「伝わる」話し方 (講談社現代新書)

相手に「伝わる」話し方 (講談社現代新書)

目次


第1章 はじめはカメラの前で気が遠くなった
第2章 サツ回りで途方に暮れた
第3章 現場に出て考えた
第4章 テレビスタジオでも考えた
第5章 「わかりやすい説明」を考えた
第6章 「自分の言葉」を探した
第7章 「言葉にする」ことから始めよう


声に出さなくても質問できる


取材する相手に対しては、声に出さなければ質問にならないわけではありません。声に出さない質問というのは、いくらでもあるのです。とりわけテレビの場合、質問者の声を入れずに映像や音声を編集したいことが多いので、声に出さない質問は有効です。


では、どうやるのか。


「どうして?」という顔をするのです。


インタビューをしていると、相手の答えだけでは意味不明だったり、よく理解できなかったりする場合が出てきます。このとき、「どういう意味ですか?」と尋ねることがあるでしょう。「それはどういうことですか?」「もう少し詳しく説明してもらえませんか」など、聞き返したくなることはしばしばあります。


こんなとき、無理に声を出さずに、「えっ?」という顔を作るのです。あるいは、「はっ?」という顔、「どうして?」という不思議そうな顔をしながら小首を傾げますと、相手は、「おや、いまの説明ではわからなかったらしいな」と気づいて、追加説明をしてくれるものです。


テレビのインタビューの場合、聞いての顔は見えず、後ろ姿だけということが多いですから、「なんで?」などという顔をしていることが、テレビを見ている人にとっては、「わかりにくいな」と感じる点について、話している人がすかさず追加説明をしてくれるように見えるので、その人に対する好感度がアップします。


インタビューでは、「うなずき」も大切です。


相手の答えを聞くたびに、「ウン、ウン」と大きくうなずくことで、相手を励ますのです。大きなうなずきは、相手への激励なのです。


通常の会話でも、相手の話を聞いてしっかりうなずくと
相手は、「ああ、この人は私の話をしっかり聞いてくれている」と勇気づけられて、いろいろ話し出すようになります。これぞ、会話をはずませるコツなのです。


地方から東京の報道局に上がってきて、さまざまな取材を積み重ねながら、私は、こんなことを考えてきました。記者リポートのあり方、インタビューの工夫など、改善すべき点は、いくらでもありました。


しかし、東京での記者生活が一0年になったところで、私には、また別の試練が与えられることになりました。今度は何と他人の書いた原稿をカメラの前で読み上げられる立場になりました。キャスターになったのです。「させられた」というのが正解でしょう。


それで再び、試行錯誤が始まったのです。


あなたに、すべての良きことが、なだれのごとく起きますように♪


今日の声に出したい言葉


人は普通、ただことばを聞いたり読んだりすれば理解できると思っている。ところが、読んだ1冊から何か引用してみてくれというと、ほとんどの 人は1行もそらんじることができない。ニーチェは、それは読書をする怠け者だだ、そらんじることもできないでわかったつもりになるなと叱る。私も「声を出 して読むことを提唱する者」として、ニーチェのことばは非常に心強い。――齋藤孝


編集後記



相手に「伝わる」話し方 (講談社現代新書)

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