第525冊目 一生懸命って素敵なこと 林文子/著


一生懸命って素敵なこと

一生懸命って素敵なこと


1日100件を目標にする
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朝、私は先輩社員より1時間前ぐらい早く出社する。新車の掃除をきれいにして、みんなといっしょに朝礼を受けて、9時30分に鞄と名刺を持って会社を飛び出す。飛び込み訪問の範囲は、田園都市市線の沿線で、鷺沼からたまプラーザ、江田とか市が尾、青葉台、ときには宮前平にかけてのひじょうに広い範囲だった。


1軒目。ピンポーン。インターホンのボタンを押す。


「どなたですか」


奥様の声がする。


「この地域を担当させていただいております、ホンダの林です」

「ホンダの林さん? ホンダ……あ、車屋さん?」

「ハイ、そうです」

「だめだめ。うちのお父さん、トヨタしか乗らないのよ」


ぶつんとインターホンが切れた。それでもかまわない。これでまず1人のお客様と言葉を交わしたことになる。


「ごめんなさい。今忙しいから」


これでもやはり言葉を交わしたことにはちがいない。しかし、お留守の場合は数えない。1日中、1軒、1軒訪ね歩く。インターホン越しであれ、玄関でお顔を見ながらであれ、お客様と言葉を交わしたらそれで一緒と数える。ピンポーン、ピンポーン。とにかく100軒に到達するまで、これを続ける。たいてい住宅街だから、今日はこの町内と決めておく。毎日100軒といとうとてつもないことのように思われるが、当時の私は大変だとは思わなかった。


「あら、あなたセールスマンなの」


最初のころは、名刺を渡して、そう言われるだけでうれしてくてたまらない。私は根が単純なのだろう。


ただし、自分で決めたことがひとつあった。先輩のセールスマンは外を回っているときでも、昼には1度もどって同僚の人といっしょにお昼を食べていたが、私は昼食もひとりでとる。朝の9時30分に出て100人を達成するまでは、絶対にお店には帰らない。


昼はラーメン屋のカウンターで、野菜炒めのライスをよく食べた。隣に作業服を白く染めたペンキ屋さんがチャーハンとか食べていたりするのだが、そういうところでひとりご飯を食べるのはまったく平気だった。


とにかく、ひとりとことこ歩いて、ピンポーン、ピンポーン。インターホンを押すと、対応はさまざま。「ハーイ」と元気に出てくる人もいれば、なんとなく不安そうに出てくる人もいる。やさしい人もいれば、つっけんどんな人もいる。人間観察が楽しく、自分なりにお客様へのアプローチの仕方を工夫する毎日だった。


表札にそのお宅の住所が書いてあればそれを書き写し、クルマが置いてあるのを見れば、登録番号やクルマの色、車種なとを書きとめる。話をしてくれた方の情報もあとでかならずメモを取る。


そして夜8時すぎに会社にもどって、その日1日分のリストを整理する。オリジナルの顧客リスト、お客様ノートを作るのだ。これを毎日続けた。「明細地図のここに、ちゃんとこの方の家が載っているな」と、楽しみながらおこなっていた。


いろいろな人に毎日出会える。この仕事はほうとうに面白い。これそこ自分探しを求めていた仕事だ、これは天職だと私は思った。


あなたにすべてのよきことが雪崩ごとく起きますように♪


今日の名言


投資には複利というメカニズムがはたらくので、若いうちから投資を始めて長生きすれば財産ができる。寿命は自分の意志だけでは決められないが、若いうちから投資を始めるかどうかは、自分の意志で決められる。――リチャードコッチ


今日の感想


こんにちは、ソンリッサです。


本日の1冊は、東レ松下電器産業勤務の後、77年、ホンダの販売店に入社、トップセールスを達成。87年、BMW(株)入社。93年、新宿支店長に抜擢される。98年、中央支店長に就任。いずれの支店も最優秀支店にした林文子による1冊。


毎日100軒訪問するまで、食事を取らなかった。と普通の人なら1日もできないことを毎日継続する。


並外れた情熱と行動力が成功者の秘訣かもしれませんね。


目次


第1章 私がダイエーでやっていること(思いきってダイエー再建を引き受ける
朝市で野菜を売って感動 ほか)
第2章 幼い頃から人が好き(築地と歌舞伎座の思い出から始まる
お転婆だった少女時代 ほか)
第3章 トップセールスマンへの道(私の人生を変えたセールスマンとの出会い
研修は社長自ら ほか)
第4章 経営の要点は“人”である(女性初の支店長に抜擢される
褒めて育てる ほか)
第5章 女性の力が企業を活性化する(国際女性ビジネス会議で出会った女性たち
女性はオープンで、ビジネスに向いている ほか)


一生懸命って素敵なこと

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