第378冊目 名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方 鈴木康之/著

名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方 (日経ビジネス文庫)

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フランスの詩人アンドレ・ブルトンがニューヨークに住んでいたとき、いつも通る街角に黒いメガネの物乞いがいて、首にさげた札には、


私は目が見えません


と書いてありました。彼の前には施し用のアルミのお椀が置いてあるのですが、通行人はみんな素通り、お椀にコインはいつもほとんど入っていません。ある日、ブルトンはその下げ札の言葉を変えてみたらどうか、と話しかけました。物乞いは「旦那のご随意に」。ブルトンは新しい言葉を書きました。


それからというもの、お椀にコインの雨が降り注ぎ、通行人たちは同情の言葉をかけていくようになりました。物乞いにもコインの音や優しい声が聞こえます。数日後、物乞いは「旦那、なんとかいてくださったのですか」。下げ札にはこう書いてあったそうです。


春はまもなくやってきます。でも、私はそれを見ることができません。


誰が見てもうらぶれた物乞いです。黒メガネをかけているのだから盲人であることも分かります。「私は目が見えません」は言葉の意味をなしていないのです。


アンドレ・ブルトンの言葉のほうには、訴えるものがあり、憐れみを乞う力があり、人に行動を促す力、もっとえげつなく言えば集金能力がありました。目的はそれだったのです。読んでもらって、施しの気持ちを起こさせ、施しをいただくこと。


目的を果たしてこそ、言葉です。

はじめに 文章への入り口―文章は書くものではない読んでもらうものである
第1部 話の中身―読む人のために、自分のためにソントクで書く
第2部 表現の方法―気持ちで書けばちゃんと伝わる
第3部 話の見つけ方―書き上手になろうと思うな聞き上手になれ
第4部 発想の方法―人と同じことを思い人と違うことを考えよ
第5部 基本は説明力―モノ、コト、ココロ万事、説明の世の中
第6部 勉強の方法―いい文章は幕の内弁当のようである

名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方 (日経ビジネス文庫)

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