第3346冊目 「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)  ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

  • 「権力」を握るのは簡単だ


本書のアイデアを実践して上の地位を手に入れるのは、思うほどむずかしくはない。なぜ自信たっぷりにそんなことを断言できるかと言えば、たくさんの手紙やメッセージを頂いているからである。その一例をここでご紹介しよう。


「お久しぶりです。一言お礼を申し上げたくてこの手紙を書いています。私は、講座で学んだことを毎日のように活用しています。とくに、自分自身を目立たせ戦略的に位置づけることを心がけるようになりました。現在の勤務先がやや官僚体質な大企業なので、このスキルはとても役立っています。たとえば最近上司の担当範囲が増え、職場にいない日が多くなりました。いわゆる管理職の真空状態が発生したのです。そこで現在では私が代役を務め、役員と話す機会を増やしています」


ここで重要なのは、企業ではこうしたケースがひんぱんに起こることである。権力と言うと何か大それたもののように響くが、実際にはそれを手に入れるのはさほど大げさなことではない。手紙の女性が伝えるように、上司の不在で生まれたチャンスを活用し、自分の存在を周囲に印象づけ、幹部との接触を増やす、といった程度のことである。あっと驚くパフォーマンスや、周囲をうならせるような手腕を発揮するにはおよばない。俳優で映画監督のウディ・アレンも、「成功の八〇%は、そこにいることで決まる」と言っている。


だが名経営者の自伝や評伝あるいはビジネススクールの講義の登場するのは、英雄的なパフォーマンスばかりである。こうしたものは真実を全部は伝えておらず、全面的に正確とは言い難い。スタンフォード大学ビジネススクールのデービット・ブラッドフォードは、「パワーアップ――責任共有のリーダーシップ」の中で、協働や権限委譲やチームワークを増やせば組織の効率は向上し、従業員にもプラス効果があると述べた。だが現実に権限委譲は進んでおらず、英雄伝説はいまも生きつづけている。


カリスマ的経営者についての輝かしい壮大な物語を読まされると、控えめな読者は「こんなことが私にできるはずがない」と思ってしまうだろう。だがこの本に書いたことなら、どんな組織のどんなポストにいる人も、実行できる。


だが中には、権力争いに加わるのはイヤだとか、自分にはできないと思っている読者もいることだろう。そういう読者には、「やってみなければわからない」とアドバイスした。たとえば教え子のメアリーがそうだった。彼女は自分がリーダーには不向きだと思い込んでいたが、あまりリスクのない状況で私のアイデアを試してみようと考え、学生委員会でリーダーシップをとる「一人実験」をやってみることにした。この委員会は、入学予定者向けのガイダンスを行うことになっていた。そこでメアリーは念入りに計画を立て、連絡役を引き受けること、打ち合わせにもまめに顔を出し、積極的に意見を言い、意思決定に参加することを目標に定める。そしてこのささやかな実験をスタートさせた。すると自分でも驚いたことに、他のメンバーから認められ影響力を持つようになるのは楽しかったのである。しかもみんなメアリーの「出しゃばり」を不快に思うどころか、面倒な仕事を引き受けてくれたことに感謝した。メアリー自身が楽しみ、自分の能力に自信をつけたことである。「食わず嫌い」という言葉があるが、何事もやってみるまではわからないものである。やってみて意外にうまくいけば好きになるし、好きになって続ければ、もっとうまくなる。始める前にあきらめてはいけない。