第3310冊目 「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)  ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)


八〇歳を過ぎてから書きはじめて死後に刊行された自伝の中でも、誰のこともけなしていない。人のいいところを見つけて誉める習慣は高い地位に就く前から身についており、死ぬまでずっと続いたのである。自伝は全体として穏やかで当たり障りがなく、彼が舞台裏を知っているはずの出来事の赤裸々な真実といったものは一切描かれていないため、あまり評判にはならなかった。だが自伝に取り上げられた人の中で、バレンティを悪く思う人は一人もいなかったにちがいない。


ほとんどの人は誉め言葉の威力を過小評価しており、したがって十分に使いこなしていない。誰かがあなたを誉めたとしよう。そのときのあなたのリアクションは、大きく分けて二通りあり。一つは、「こいつは心にもないお世辞を言っている」という反応である。この場合、相手をごますりと考えてネガティブな感情を抱き、誉められても心が動かないだろう。それどころか、お世辞を言って自分に取り入ろうとしていると判断した場合、「これほど見え透いた手で私を丸め込めると思っているのか? 私はそんなに甘く見られているのか?」と自分自身に対するネガティブな感情につながりかねない。もう一つは、誉め言葉を心からのものとありがたく受け取る反応である。この場合には、誉め上手な相手の対人スキルに好感を抱き、また誉められた言葉を額面通り受け取り、誉めてくれた相手に好感を抱く。したがって、誉め言葉を出し惜しみしてはいけない。カリフォルニア大学バークレー校教授のジェニファー・チャットマンは、未発表の研究の中で、誉め言葉が効果を失う限界点がどこかにあるのではないかと推測している。チャットマンの仮定では、誉め言葉の効果をグラフ化すると逆U字型になるという。すなわち誉め言葉の効果は始めは急激に高まるが、だんだんゆるやかになり、ある点を越えると(誉めすぎる)効果が薄れ、単なる媚びへつらいと受け取られてしまう。どこかに限界点があるはずだが、データからはどこと特定することはできなかった、とチャットマンは話している。