第3253冊目 家族のためのユマニチュード: “その人らしさ”を取り戻す、優しい認知症ケア  イヴ・ジネスト (著), ロゼット・マレスコッティ (著), 本田 美和子 (著)


家族のためのユマニチュード: “その人らしさ

家族のためのユマニチュード: “その人らしさ"を取り戻す、優しい認知症ケア

  • 見る


まず、「見る」技術です。


相手が認識している視野に正面から入っていないと、気がついてもらえません。突然現れると、まるで交差点で車が飛び出してきたようにびっくりさせてしまいます。


認知症の人が認識している視野は私たちが想像しているよりも狭いのです。視野の外から話しかけても、誰かが自分のそばにいるとは気がつかず、言葉も認識していないことが多いのです。それを理解してコミュニケーションを取っていく必要があります。「私がここにいますよ」と伝えるために、まずは、正面から近づいて視線をとらえます。


見ることは、単に自分が視覚的に情報を得るだけでなく、相手にいろいろなメッセージを伝えています。


正面から見ることで自分が相手にタイして正直であること、近くから見ることでとても親密な関係にあること、水平に見ることで互いが平等な立場にあること、長く見ることで好ましく思っていることを相手に伝えています。


反対に、自分はそんなつもりは全然ないのにも関わらず、ベッドで寝ている人に立って話しかけるときのように上から見下ろすことによって「私の方が強い」という力関係を示すメッセージを、また、ちらっとしか見なかったり、目の端でしか見なかったりすることで相手を軽んじているというメッセージを相手が受け取ってしまう可能性があります。


とりわけ近くから見ることが、最初は難しいのです。誰かと向き合うとき、人は自分が心地よいと感じる空間を確保します。これをパーソナル・スペースと呼んでいます。一般にその距離は腕の長さくらいです。それより近づくと居心地が悪く感じてしまい、のけぞったり、後ずさりしてしまいます。