第2750冊目 ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 G.キングスレイ ウォード (著), G.Kingsley Ward (著), 城山 三郎 (翻訳)


ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫

  • 社員と解雇するとき


私たちの総務部長を解雇しなければならないことについて、君が感じている懸念や狼狽は、人間として好ましい感受性の現れである。それは君に他人を思い遣る気持がある証拠だし、そのような任務の遂行が他人に与えかねない動揺と絶望に気づいている証拠でもある。私は君の優しさが好きだ。


しかも、もし私に悪魔の弁護士の役を務めさせてくれるのなら、君がかたときも忘れてはならないのは、君の事情の成功が、社員ひとりひとりの力を結集した作業の質と量にあっかっているという事実である。もしある社員がその任務に不適格であれば、彼は会社にとってありがたくない。職務に適格な社員が有益であるのに対して、ありがたくないのである。残念なことに、会社にとってありがたくない存在である人間は、その現実を意識せざるを得ないので、その人個人としてもおもしろくない思いに浸ることになる。それも当然だろう。毎日八時間も沖に押し出そうとする潮流に逆らって泳いでいれば、すべての難儀を、会社を出たとたんにきれいさっぱり忘れるというわけには行かないのである。


上級管理職のなかには、「頬張りすぎて噛めない」ために、仕事に困難を感じる人がいる。高給や役職は欲しいが、何らかの面で、それをこなす資質を欠いている場合である。そのような管理職の会社生活は、絶え間ない苦闘と混乱に陥ることになり、私たちはしだいに彼の努力に信頼を失うだろう。


もう一方の極端には、地位以上に力がありすぎて、死ぬほど退屈している人がいる。彼は毎日を凪にあった船乗りのおうに過ごす。「いいところだが、刺激がないのはやりきれない」。この人もまた、会社にとっても得にならず、遅かれ早かれ、袂を分かつときがくるからである。


大筋はこうだが、ときには周囲の社員のあいだに、不和や道義的な問題を惹き起こす人物が現れる。会社にとって、極めて貴重な存在になるすばらしい可能性を示し、仕事にも熱意を燃やしながら、どうしても同僚とうまくいかない人びとの例を私はいくつか見ている。ほかの社員たちがしだいに動揺し、職務に興味を失っていくのが、壁に書かれた文字のように、読みとれるのである。このような紛争を惹き起こす人は、貴重な社員が逃げだすまえに、辞めてもらわなくてはならない。