第2747冊目 ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 G.キングスレイ ウォード (著), G.Kingsley Ward (著), 城山 三郎 (翻訳)


ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫


読書量は多くても、ほとんど小説しか読まない人もいる。彼らはそれでくつろげる、と言う。ノンフィクションを読むのは仕事だと感じる人が多い。奇妙なことに、私はノンフィクションを読みながら、くつろぎ意外のものを感じることはない。しかも、この世界にま学ぶべきことが実に多くあり、小説よりもはるかに興味をそそられる事実が無数にあることを思うと、誰かの白昼夢を読むのは時間の浪費にさえ感じられる。


ジョン・ロックは、一六七〇年に言った。「ここでは人の知識はその経験の域を出ない」。私もそう思うが、他人に経験について読むことによって、自分自身の経験を大きく拡げることができる。世界では、ハリー・トルーマンアメリカの副大統領であった当時、大統領の地位には不適格であるとみなされていた。しかし彼はその経験の乏しさにもかからわず、非常に強力な大統領になった。彼の成功に関する私の持論によれば、その主たる原因は、彼が一四歳で、ミズーリ州インデペンデンス市の、小さな地域図書館の本を一冊残らず読破した事実である。大統領として必要とされる、経験では得られなかった世界的な問題に関する洞察力を彼に授けたのは読書だった。


歴史は私にとって最も刺激的で、えるところが多く、また楽しめる一連の物語である。第一次世界大戦中に飛行機を操縦した人たちの勇気、人と社会についての孔子の思索、獅子王リチャードがイギリス建国のために受けた試練。すばらしい。数々の英雄的行為の華麗な遂行、数々の苦悩の果敢な克服、数多くの人びとによる数々の難題の解決。これらに比べると私たちのささやかな努力の多くは取るに足りないものに見えてくる。しかし、私たちの旅はどこまで続こうと、まず一歩を踏み出すことから始める。そして本を一冊読むたびに正しい方向に一歩前進するものである。