第2469冊目 カリスマは誰でもなれる オリビア・フォックス・カバン (著), 矢羽野 薫 (翻訳)


カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

  • 準備運動


あなたはマラソン大会に向けて練習をしているとしよう。すでに何回か完走したことがあり、フォームも完ぺきで準備万端だ。大会当日、会場に着いたら何をするか。出発までうろうろして、号砲とともにトップスピードで駆け出すだろうか。もちろん、そんなことはしない。出発前に入念な準備運動をするはずだ。


カリスマについても、まさに同じだ。自分が望むレベルまでカリスマを徐々に高められるように、準備運動の時間を取ろう。カリスマ的なパフォーマンスを最大限に発揮したいなら、ゼロからアクセル全開まで一気に、意のままに加速できると思ってはいけない。純粋な意志の力だけでは、カリスマを最大限に発揮できない。むしろ重要なのは、普段どおりの意志力には限界があると理解しておくことだ。


行動科学者は、意志力は筋肉に少し似ていて、使ったぶんだけ疲労すると考える。誘惑に抵抗したり、ある種の苛立ちに耐えたりするために意志力を使うと、その直後に別の場面で意志力が必要となったときに力が落ちている。意志力を行使すると、実際に肉体が疲労するのだ。意志力は限られている至言だから、いつどのように使うかは戦略的に考えなければならない。


先に、頭脳明晰だが短気なクライアントのロバートを紹介した。だらだらと続く会議に耐えられないエグゼクティブだ。彼は、他人に対する忍耐力が足りない自分に苛立つことも少なくない。会議や人と話をしている最中に、心に湧き起こる苛立ちと戦うと、何時間も経ってからパフォーマンスが低下するという。午前中に何回かそうした経験があると、その日は明らかに、カリスマの能力が邪魔されるのだ。


私はロバートに、意志力は使うたびに残量が減っていくと説明した。しかし、「短気な自分に腹を立てるのをやめて、意志力という資源を適切に配分することもできる。自分にとっって日々の仕事の中で、貴重な意志力を費やす価値のあるものはどれか、慎重に考えてみよう」と私は提案した。自分の意志力を使うまでもないと判断した会議や打ち合わせは、部下に任せるか、同僚と相談して、ロバートにとって意志力をあまり使わない別の仕事と交換してもいいだろう。


たとえば、あなたは重要なディナーに出席している。あなたのキャリアに大きな影響を及えそうだから、ことさらカリスマらしく振る舞いたい。カリスマを高める機会を最大限に広げるためには、パワーと誠意を発散するような精神状態にならなければならない。ディナーで絶対的な自信を伝えれば、その日は朝から、とくにディナーの数時間前からは、自己嫌悪になりかねない会議や約束を入れないこと。ディナーに出席するだけでなく、自尊心を高める準備運動をする余裕を持とう。いつも自信を持たせてくれる友人とコーヒーを飲んだり、自信や達成感を得られるような行動(スポーツをする、楽器を演奏するなど)をするものいい。ディナーの前にカルテルパーティーがあるなら、あなたを批判したりからかったりする人ではなく、自分について前向きな気持ちにさせてくれる人と話をする。誰かをからかって笑うのは楽しいだろうが、それはカリスマがあまり重要ではない夜にとっておこう。


アスリートが大きな試合の朝に集中力を保つように、カリスマを最大限に発揮しなければならないときは、心の中に入ってくるものに気をつけること。音楽を聴くだけでも、感情や精神状態に影響を与えかねない。悲しい歌を聴いて悲しくなった経験は、誰にでもあるだろう。頭や心に入ってくるものはすべて、内面の状態に影響を及ぼすことを忘れないように。