第2406冊目 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)


スタンフォード大学ビジネススクールのフランク・フラインと教え子のバネッサ・レークは、他人が頼みに応じてくれる確率がどれほど過小評価されているかを調べるために、いかにも断られそうな頼みを実際に行う実験を行った。その一つは、参加者が通行人に短いアンケートに答えてくれよう頼むというものである。実験に頼む前に、「五人に答えてもらうまでに何人に頼む必要があると思うか」と参加者に質問したところ、答は平均二〇人だった。だが実際には約一〇人に頼んだだけで、五人の回答者を獲得できている。つまり打率五割に達したわけである。ところが見知らぬ人にものを頼むのはよほど苦痛だったと見え、参加者の五分の一は、実験を最後までやらなかった。この種の実験では、参加者は事前に了解すれば最後までやり通すのがふつうなので、この脱落率は異常に高いと言える。


もう一つ、通行人に携帯電話を借りて緊急の連絡をさせてもらうという実験もあった。この場合にも事前に「三人から借りられるまでに何人に頼む必要があると思うか」と質問したところ、答は平均一〇人だった。しかし実際には六・二人で済んでいる。さらに、三ブロック先の体育館まで連れて行ってもらうという実験でも、七人の予想に対して平均二・三人で、親切な人が見つかっている。この実験も参加者にとっては大いに苦痛だったらしく、二五%の人が目的を達する前に脱落してしまった。フラインとレークの研究は、大方の人が他人の行動をうまく読めず、悲観的に予測しがちであることを
実証したと言える。自分が頼む側の場合、頼まれ側の視点から考えるのはむずかしい。またこの研究は、ちょっとしたことでさえ人にものを頼むがいかうに苦痛かを示した点でも、貴重である。