第2400冊目 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

  • エネルギー


ローラ・エッサーマンは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のキャロル・フランク・バック乳ガン治療センターで所長を務めている。エッサーマンは、ほとんど何の権限もない立場から、サンフランシスコ市ひいてはアメリカ全体の乳ガン治療法に画期的な変革をもたらした。しかも医師としてフルタイムで働き、かつ第一子を出産した時期にMBAを取得している。「一休みしてからやろう、なんて言っている人は結局何もできない」と彼女は言う。たしかに放送業界で絶大な影響力を誇るCBS社長フランク・スタントンは猛烈な仕事ぶりで知られ、1日5時間しか眠らない。週末も、である。学校制度改革の旗手であるルディ・クルーは、驚くべきことに毎朝三時に起床する。ニューヨーク市教育総長のオフィスに一番乗りするのは、いつもクルーだ。私の知るかぎり、元気のない人が高い地位に就くことはまずない。


エネルギーは、三つの点で影響力の拡大に寄与する。第一に、エネルギーは怒りや満足感と同じく伝染する性質を持つ。したがって、あなたの活力は周囲の士気を鼓舞する。リンドン・ジョンソン大統領は、一九三〇年代に下院議員リチャード・クレーバーグの秘書を務めていた頃、二人の助手をこき使ったという。だがジョンソン自身も死にものぐるいで働いたため、助手はけっして文句を言わなかった。あなたが真剣に取り組めば、その仕事は重要だというシグナルを発することになる。部下は必ずそのシグナルを読み取るはずだ。あなたがやる気を見せれば周囲もその気になる。逆もまた真なりである。


第二に、エネルギーと時間を投じれば、何事であれ達成できる可能性は高まる。社会心理学者のディーン・キース・サイモントンは、さまざまな分野で天才と呼ばれる人々が成し遂げた業績を四半世紀にわたって調べた結果、大事なのは「準備期間に労力を注ぎ込むこと」だという結論に達した。「個人の業績の差は結局のところ、知識とスキルの習得に直接費やした時間数でおおむね説明がつく。研究者の中には、生まれながらの才能や天分という概念は幻想だと主張する人さえいる」。天才が幻想かどうかはともかく、長時間がんばり続けるエネルギーがあれば、目標に人より早く近づけることはまちがいない。


第三に、上司はエネルギッシュに働く部下を昇進させることが多い。熱心に仕事に取り組むこと自体重要なことだし、そうした熱意は組織への忠誠や献身の表れとみなせるからである。先ほどのメリンダも、もし二人の社員が昇進候補に挙がっていて、片方は十六時間労働も厭わないが片方は残業をしない主義だとしたら、やはり前者を選ぶと認めている。


体力や持久力をつけること、少ない睡眠時間に耐えられる体を作ることは、おそらく可能である。先ほどのローラ・エッサーマンは、外科医としての訓練が役立ったと話す。インターン時代には睡眠をとらずに長時間ぶっ続けで働かなければならなかったため、自然に体力がついたという。このことから、何らかの有効なトレーニング法があると考えられる。腎臓透析専門会社ダヴィータのCEOケント・サーリーは、会議中にバック転をすることで有名だが、日頃から個人秘書に命じて運動の時間を確保している。体力にはライフスタイルが密接に関係すると思われるので、多忙で出張の多い人でも、食習慣や運動によって元気な体を維持することは十分可能であろう。また、強い意志を持って仕事に臨んでいればエネルギーも湧いてくると考えられるので、その意味では決意はエネルギーを伴うと言える。