第2325冊目 カリスマは誰でもなれる オリビア・フォックス・カバン (著), 矢羽野 薫 (翻訳)


カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)


CEOや人事の専門家は、採用面接の最初の数秒間で合否を判断する人も少なくない。あるシニアエグゼクティブに言わせれば、「面接の残りの時間は見せかけにすぎない」。


教授の評価に関する実験を行ったハーバード大学の研究チームによると、第一印象は原始脳の脳幹でつくられる。脳幹は本能や原始反射の源でもあり、私たちの祖先が生き延びるカギを握っていた部位でもある。狩猟採集の時代は、視野に入ってきた影が生物か生物でないか、人間か人間でないか、敵か味方か一瞬で判断しなければならない状況が多かった。「闘うか、逃げるか、安心していいか」を一瞬で決めるのだ。この判断を正確にできる人は、生き延びて、繁栄し、子孫を残す。しかし正確に判断できない人は、誰かのタンパク源となる。


こんにちでも、洗練されたビジネスの世界でさえ、狩猟採集時代の生存本能が機能している。初対面の人を前に、私たちは本能的に考える――敵か味方か。どのくらい好意を持っていそうか。その答えを探すために、村落で暮らしていた時代にとても有益だった手がかりに頼る。すなわち、外見と態度だ。


相手が敵になりそうな可能性が少しでもあれば、次に考えるのは、闘うか逃げるかだ。相手に悪意があるなら、悪意を行動に移せる影響力を持っているかどうかを考える。その答えを探すために、私たちの脳は、闘った場合に自分と相手のどちらかが勝ちそうかを判断しようとする。身長や体格、年齢、性別なども判断材料になる。


これら2つの判断を下した後でよくやく、実際に何をどのように言うかを考えることになる。


では、素晴らしい第一印象を与えるにはどうすればいいか。その大前提はきわめてシンプルで、人は自分を好きな人を好きになるというものだ。人類はその歴史の大半を通じて、村落で暮らしてきた。村落を中心とする社会では、同じ村落の人間かどうかを正確に判断する能力を生死を分けることもあった。この本能的な反応を自分の有利に使うことができれば、生存競争に半分勝ったも同然だった。


外見や態度、話し方が自分と似ていれば、私たちは似たような社会的背景や教育、価値観を共有していると自動的に推測する。そして、同じ部族の仲間だと感じる。ラドヤード・キップリングの「ジャングル・ブック」によれば、「おまえと私は同じ血」だ。


最初に注目するのは全体的な外見で、その後に態度やボディランゲージを判断する。その理由は、服装はかなり遠くから見えるため、相手が敵か味方か、同じ部族かそうでないのかを素早く判断しやすいからだろう。現代でも、服装はいわば部族のようなものだ。