第2301目 入社1年目の教科書 岩瀬 大輔 (著)


入社1年目の教科書

入社1年目の教科書

  • 仕事は盗んで、真似るもの


多くの企業の教育制度、研修制度は現在、非常に充実しています。


その恩恵に与っていると、仕事は教えてもらうものだという受け身の姿勢が身についてしまうのはやむを得ないことかもしれません。でも、勘違いしないでください。仕事について教室や研修で教えられることは、限られているのです。


新入社員のころ、僕は常に先輩の横にくっつくようにしていました。お客さまへの質問の仕方、メモの取り方など、すべてを真似ようと考えたからです。


上司や先輩に頼んで、普段見られない場所に連れていってもらうことは、得難い経験になるとお話しました。僕が強調したいのは、そこで見聞きしたことを真似て、自分の中に取り込むことです。仕事は真似ること、盗むことでしか身につかないと言っても、決して言い過ぎではないと思います。


もちろん、人それぞれのスタイルがありますから、すべてのことを真似する必要はありません。自分が良いと思ったこと、自分に合ったスタイルを見つけたら、積極的に真似していけばいいのです。


最初の会社で一緒に仕事をした矢吹博隆さんは、何でも数字に換算しながら仕事をする方でした。定性的なことも、すべて数字に落とし込んでいくのです。徹底してロジックを積み上げていくと、説得力も増すということを学び、そのスタイルを真似しました。


同じくボストン・コンサルティング・グループで別の上司だった御立尚資さんは、タクシーから降りるときには必ず運転手さんに丁寧に声をかけ、頭を下げていました。


「偉い人は、そういう気配りが大切なのか」


御立さんの気配りする姿が忘れられず、いまは僕もそうしています。運転手さんに対して彼が横柄な態度を取っていたら、運転手さんに「お世話さまでした」とお礼を言う習慣は、身についていなかったかもしれません。


リップルウッド・ホールディングス時代の上司は、とくかく相手を注意深く観察する人でした。交渉の席でも食事の席でも、穴のあくほど相手を見るのです。相手の心理や癖を見抜き、ビジネスに生かす彼の姿から、観察力を磨く大切さを学びました。


ほかにも、アメリカ育ちのため、日本語が必ずしも流暢ではない日本人と仕事をする機会がありました。交渉が大詰めを迎えたとき、本当にその商品を売り込みたいとき、彼は嘘をつかない範囲で目いっぱいストレッチした営業トークをする人でした。


コンサルタントは優等生です。正しいことしか言いません。しかしながら、それでは取引してもらえず、取引してもらえなければ実績ができないという悪循環に陥ってしまいます。ベンチャーの視点で言うと、ときには正論を度外視して切り拓かなければならない場にいずれ直面するものです。「大丈夫です」と言い切る彼の姿勢を学んだおかげで、局面によっては大きく出ることを武器にしています。


リップルウッド・ホールディングスでは、よく上司の個室に呼ばれました。


「岩瀬君、今日の日経のこの記事読んだかい?」


「読みましたが、何か?」


「面白かっただろ」


「はい? どこが面白いのでしょか?」


「この記事はこう書かれているけど、つまりこういうことだろう。これを深く考えていくと、こういう結論を導くことができるんじゃないか」


上司は、たった一つの記事から様々なことに考えを派生させていく人でした。情報は一方的に受け取るものだと思っていた僕は、そうしたやり方を何度も重ねるうちに、情報の読み方が変わったのです。


上司でも先輩でも同期でも構いません。ほかの人がやっていることを見て、自分もそうありたいと思ったら、すぐに真似をしてください。新たに気づかされたことがあったら「へぇ〜、すごいね」で終わらせないでください。


自分のスタイルを形成するには、いろいろな人に会い、いろいろなものを見る必要があることを強調したいと思います。