第2269目 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則

「権力」を握る人の法則

  • 自分の力を放棄しない


さて、先ほどお話しした通り自分に合った仕事であって、かつ政治的リスクが妥当な範囲内に収まっている仕事に就いたとしても、それだけでは十分ではない。あなたは、その仕事において適切にふるまわなければならない。具体的には、地位にふさわしい権限を主張することである。なけなしの力を自分から手放しては絶対にいけない。程度の差こそあれ、自ら敗北宣言をして身を引いたり譲歩したりしてしまう人があまりに多いのは、まったく驚くほどである。そうした行動は、そもそも自分自身をどう見るか、というところから始まっている。自信のある人は強い姿勢に出て力を誇示するが、自信のない人は弱腰になり卑屈になる。


社会心理学者のキャメロン・アンダーソンとジェニファー・バーダルによれば、権力をあまり持っていない人や持っていないと感じる人は「非言語的な抑制行動」をとりがちだという。わかりやすく言うと、低姿勢にあり、肩をすぼめて縮こまり、動作を小さく弱々しくなる。だが第7章で論じたように、力を印象づけるのは声や話し方やふるまいである。下を向いてぼそぼそしゃべり一向に自己主張しないのでは、周囲の人から見下されるに決まっている。そうなればますます影が薄くなってしまうだろう。


アンダーソンとバーダルが行った実験では、高い地位にある人や人事・予算の権限を握っている人は、状況を自分でコントロールできると考え、自分の思う通りに行動することが多かった。これに対して地位が低く権限の小さい人は、困難な状況に萎縮してしまい、強い方針を打ち出せない傾向が見られた。


また、権力者に対して戦略的な行動をとることができず、自分の立場を悪くしてしまうケースもよくある。たとえば上司に対して不用意に本音を漏らす、などはその典型である。ある有能な報道記者は、本社のボスが管理にばかり時間を使っていると文句を言い、もっと現場のサポートをしてほしいと不満をぶちまけた。すると「文句の多いヤツ」と見なされて干されたという。「上司とはうまくやるか、でなければ転職するしかない。だが狭い業界では、転職は必ずしもよい選択肢とは言えないだろう。となれば、うまくやる方を選ぶしかない」と彼は反省している。ときに「ガス抜き」をし、思う存分に愚痴や本音を吐き出したらきっとせいせいすることだろう。だがそのターゲットが権力を握っている相手なら、いい気分も一時しか続くまい。報いはすぐにやってくる。


何らかの試みに始めから手を出さないのは、確実に力の放棄である。なるほど挑戦しなければ、失敗はしないだろう。それによって、自尊心は保てるかもしれない。だが挑戦しなければ、絶対に成功することはできない。ときに人間は、ゲームから降りようとする。パワーゲームは嫌いだという人や、「どうせ無理だ」とあきらめて始めから努力を放棄することにある。自分は無力だとか被害者だと考えるのをやめ、自ら働きかけ影響力を行使するようになれば、成功の確率は劇的に高まるはずだ。エレノア・ルーズベルトが語った通り、「あなたが自分から言わないかぎり、誰もあなたを劣った人間だとは思わない」。あなた自身が手を貸さないかぎり、人から権力や地位を奪い取るのはそうたやすいことではないのである。