第2247目 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則

「権力」を握る人の法則


数年前、私はアリアンツの保険後会社ファイアマンズ・ファンドで役員研修をしたことがある。当時同社のCOOを務めていたおはジョー・ペネダッチで、まだ三七歳だったが、「インシュアランス・アンド・テクノロジー」誌でCOOオズ・ザ・イヤーの一人に選ばれていた。なぜその若さでこれほど高い地位に就くことができたのかと質問すると、学生のせいじゃないね、と彼は即答したものである。まじめに勉強はしたが、一流大学出身ではない。その分、たくさん本を読むこと(週に一冊はノンフィクションを読むという)、自分を振り返る習慣をつけたことが、抜擢された原因ではないかとジョーは話してくれた。重要な会議の後や心に残る話を聞いたときは、必ず手帳に書き留める。会議や講演の大筋とともに、どこに感心したのか、どこは賛成できないか、誰がどんなことを言ったのか等々をメモしておく。この手帳を読み返せば、各人の見解やそれに対する自分の考えがよみがえるので、その後の関係作りがうまくいく。またメモをつけること自体が内省を促し、思わぬ閃きが得られることもあるという。


フロリダ国際大学の学長を二三年にわたって務めてきたデスト・マイディーケも、ノートをつけている。マイディーケは学長に就任する前は二つの会社を経営し、かつ投資銀行ハンブレヒト・アンド・クイストのパートナーも務めていた。営利企業でも非営利組織でも輝かしい経歴の持ち主である。いったいどうしてそんなことが可能なのかと質問したところ、マイディーケはたちどころに、ノートをつけているから、と答えた。重要な決定事項や会議のほか、誰に会ってどんな話をしたか、それについて自分はどう考えたかを書き留めておくという。対人スキルが向上したのはそのおかげだ、とマイディーケは話している。


内省や省察なしに学習や成長はありえない。カリフォルニア大学デービス校のアンディ・ハーガドンは、「二〇年の経験を積んだと自慢する人がよくいるが、実際には一年分の経験を二〇回繰り返してきたに過ぎない」と指摘する。自己省察の習慣は、経験を積むことに相当する。また同時に精神を集中し、文章を書き、塾考する訓練にもなる。これは、上をめざす人にとってきわめて有効な習慣と言えよう。