第2186冊目 ユマニチュード入門 本田 美和子 (著), ロゼット マレスコッティ (著), イヴ ジネスト (著)


ユマニチュード入門

ユマニチュード入門


やってみたユマニチュード
ユマニチュードのテクニックに「目が合ったら2秒以内に話しかける」というのがあります。そんなことは当たり前だと思われるかもしれないですが、目が合わないと思っていた方と目が合うと、びっくりしてこちらも一瞬固まってしまうんです。

患者さんの立場になって考えると、ふと気づいたら目の前に人がいて、何も言わずにじっとこちらを見ていたら怖いですよね。攻撃しにきたのかと勘違いされてしまいます。2秒以内に話しかけなければいけないというのは、自分が敵意をもっていないことを相手に示すためなんだと、知りました。

そういった一つひとつのテクニックが具体的に構築されているところが、ユマニチュードの優れた点だと思います。



?自然にできる「見る」
赤ちゃんを見つめる母親のまなざしは、優しく愛情にあふれています。赤ちゃんはまだ言葉がわからないので、周囲の人はまなざしで愛情や優しさを表現します。そして、「わたしの子どもとして産まれてきてくれてありがとう。うちの子どもがいちばんかわいい」と、愛情、優しさ、誇りに思っていることを伝えるまなざしを自然に投げかけています。

その方法は正面から水平に、近く、長く、見つめるもので、これらは赤ちゃんを自分たちと同じ種に属する人として認めるポジティブなまなざしです。これは誰に学ぶことなく、わたしたちは自然と行うことができます。相手とよい関係を結ぼうとするときも同じです。わたしたちは、赤ちゃんをユマニチュードの状態に受け入れるのと同様に、自然なポジティブなまなざしを相手に与えています。


?後天的に学ばないとできない「見る」
路上で自分に対して攻撃的だったり好ましくない相手に出会ってしまったときに、人は誰でもその相手を見ないようにします。視野に入れないように顔を背けるのです。これはごく自然な対応です。ケアをする人にも同じことが起きています。

つばを吐きかけたり、何かを投げつけたり、大声で叫ぶ「攻撃的な人」に、ちゃんと近づいていき、彼らを「見る」ことができているでしょうか?

人は生まれながらのごく自然な反応として、嫌なもの、怖いものを見ようとはしません。ですから、もしあなたが後天的に「見る」ことについて学んだことがなければ、無意識のうちに、苦手な、攻撃的な相手からは視線をそらしているはずです。

しかしこれまで述べてきたように、相手を見ない、ということは、「あなたは存在しない」というメッセージを送ることです。人は他者から「見てもらえない」状態では生きていけません。「あなたは存在しない」というメッセージが送られ続ける環境の中では、人は社会的な存在としての「第2の誕生」の機会が奪われてしまうのです。

したがって、ケアを受ける人に「あなたは、ここにいるのですよ」というメッセージを送り続けることが重要であり、これがユマニチュードの原点です。もしあなたが「ケアをする職業人」であり、自分に攻撃的で苦手な人に対しても「あなたはここに存在する」というメッセージを確実に届けたいと思うならば、「見る」ことを後天的に学び直す必要があります。